第13章 過ぎ来し方、草いきれ
「······それから兄は病院に運ばれ一命はとりとめました。しかし、しばらくして身体が思うように動かなくなり、いたるところに障害が残ってしまった。進学の道も、教師の夢も絶たれ、あなたの妹との婚約も破談になった」
屋敷に戻った林道に仔細を聞かれ、星乃はこれまでのことをすべて話した。林道は憤慨し、あの夜清二に屋敷を任せた自分を激しく責めた。
傍らでは文乃が茫然と一点を見つめていた。
その後、飛鳥井と塚本の間で様々なやりとりがなされたようだが、詳しくは知らない。
無論、清二と文乃の結婚は破談となった。
「のちにあなたの妹君が亡くなったと耳にしました。病弱だったようですが、結婚の約束をするくらいだ。短命を宣告されるような病でもなかったでしょう······それなのに」
文乃は寝間に引きこもるようになり、星乃は屋敷へ立ち寄るたび文乃に声をかけ続けた。
しかし文乃が寝間から姿を見せることはなく、譲り受けたいちごの苗を植え寝間の前に置いておいた鉢も、翌日庭で割れていた。
秋も終わりへと向かう頃、任務の最中出逢ったという実弥を匡近が林道のもとへ連れてきた。
星乃には姿を見せることのなかった文乃も、のちに実弥から『稽古中に何度か姿を見かけた』との話を聞いて、ほんの少しだけ安堵していた。
けれど───
「妹君は、自死されたのでは」
「テメェの勝手でものを言うんじゃねェ」
!!
ド、ッガァ···ッ!!!
突如として隠の背後に実弥があらわれ、隠は玄関先の庭へと投げ飛ばされた。
隠の手から解放された星乃の身体がぐらりと前へ倒れ込む。膝をつき振り向くと、隠の胸ぐらに実弥が掴みかかっていた。
どうして実弥がここに···? まだ、待ち合わせの時間にもなっていないはずなのに。
そんな疑問を抱いていると、実弥の横で鼻を鳴らす紅葉の姿に気がついた。
「か、鴉···? っ、なんで」
「つまんねぇ眠り薬なんざにかかるような鴉じゃねぇんだ······鬼殺隊の鴉ナメんなよォ」
「っ、グ、」
「鴉からおおかた話は聞いたぜェ······テメェの兄貴がなんだってェ? 隠ィ」
「グ、ゥ"」