第13章 過ぎ来し方、草いきれ
一瞬の隙を見て、近くに転がっていたものを手にすると、星乃は無我夢中で清二めがけてその腕を振り動かした。
ゴッ···!!
凄まじい打撲音とともに、『う"···っ!』清二がさきほどよりも大きな呻き声を上げる。
我にかえると、苦痛に顔を歪めながら頭部を押さえている清二の姿が星乃の目に飛び込んできた。
星乃は微かに悲鳴を発した。
頭を押さえる清二の指の隙間からは、血が流れ出ていた。
一瞬自分がなにをしたのか記憶にない。ただ、咄嗟になにかを掴んで、それを──。
息を詰め手を見ると、星乃は拳大ほどの石を握りしめていた。
全身からすう···と血の気が引いてゆく。震える掌からごろんと石が転がり落ちる。
清二は痛みに悶えつつも、明らかに意識を朦朧とさせていた。
だ、誰か、誰か人を······!
痛む足を引きずるようにして起き上がる。しかし歩き出した星乃の背後をまたしても清二が襲った。
『や···っ、清二さん···っ、離して···!!』
ドン···ッッ!!!
──────────────────
はあ···はあ···と、肩で息をしながら目の前で動かなくなった清二の姿を眺める。
突き飛ばされた清二の身体は、高く積み上げられている薪の束を背にぐったりとしなだれかかっていた。
『せ、···清二、さん』
呼びかけても返事はない。
ふらふらと、星乃は力ない足取りで清二へと歩み寄ってゆく。
清二さん···清二さん···っ
肩を揺さぶっても目を覚ます気配が見られない。青白い顔に流れる鮮血が、ポタリと星乃の手に滴り落ちる。
『わ、私···』
なんてことをしてしまったのだろう。
星乃はその場にへたりと座り込んでしまった。
まだ、息はある。一刻もはやく人を呼びにいかなければいけないとわかっていても、身体に力が入らない。
はやく···はやくしないと、清二さんが······
立ちあがらなきゃ······急がなきゃ······
───はやく
『星乃!! 何かあったのか!? 大丈夫か!?』
駆けつけたのは、匡近だった。