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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第13章 過ぎ来し方、草いきれ



 今日は家庭教師も休みのはずだ。だから星乃も飛鳥井の家へ立ち寄ったのだ。



『先日大事な本を置き忘れて帰ってしまったから、キヨ乃さんに事情を話して取りに行かせてもらったんだ』

『······っ』



 ほら、というように、清二が一冊の書物をひょいと片手に掲げてみせる。

 嫌な汗がじわりと浮いた。

 ここに入るところを見られていたのか。それともキヨ乃から聞いたのか。

 わざわざこんなところまでやって来てなにを考えているのだろう。本を取りにきただけならば、すぐに屋敷を出ればいい。

 思わしくない考えばかりが巡り、身体がすくんだ。息が苦しい。草いきれにめまいがしてくる。

 清二はまるで悪びれる様子も見せずに納屋の中へ踏み出した。



『こ、来ないでください···っ』

『実は、あの夜のこと、ちゃんと謝りたいと思って来たんだ···。けれど』

『帰って···っ、帰ってください···っ』

『鬼殺隊とやらは、本当に存在しているんだね。鬼だなんて僕はいまだに半信半疑だけれど···それは制服かい? 膝から下を大衆にちらつかせる服を着て···君には恥じらいというものがないのかい?』



 足が震える。思うように身体が動かない。じりじりと迫ってくる清二に追いやられ後退る。

 とん、と背中に壁がついた。



『清二さ···っ、や···!!』



 バサッ。清二の手が書物が放り、同時に伸びてきたそれで星乃の腕を掴みにかかる。その場で揉み合いになる二人。


 逃げなきゃ···っ、
 このままじゃ、また──。


 あの夜を思い出し、星乃の背がぞくりと粟立つ。

 バシ···!!

 振り上げた手が意図せず清二の顔に当たり、うっ、と短い呻き声がした。

 清二がよろけた隙を抜け駆け出す。だが納屋の入り口付近で追い付かれ、星乃は肩を掴まれた衝撃で地面に転げた。

 すぐに立ち上がろうとして、つきん、と足に走った痛みに気づく。



『きゃ···っ!!』



 瞬間、清二が星乃の上に覆い被さった。



『清二さんやめて!』

『く、?』



 星乃の隊服の襟元に手をかけた清二がふと戸惑った様子で動きを止めた。

 特殊な繊維で作られている隊服は、人間の手では到底引き裂けるものではない。


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