第13章 過ぎ来し方、草いきれ
星乃と匡近は、藤襲山での七日間を無事生き延び、見事鬼殺隊への入隊を果たした。
匡近は道場を去り、星乃も半ば清二から逃げるように飛鳥井の家を出た。
ただひとつ、文乃のことだけが気がかりで、こまめに手紙のやり取りをし、文乃の体調や生活を気にかけた。
清二とは変わらず仲睦まじいようだった。
夏も終わりに近づいた頃、星乃は飛鳥井の家の納屋で探し物をしていた。
鉢である。
知り合いの農家からいちごの苗をいくつかわけてもらえることになったので、それ用の鉢を用意するためやってきた。
いちごは購入するとなるとなかなか高価で、そう頻繁に手にも入らない。
お腹が膨れるくらいのたくさんのいちごを頬張りたい。以前、文乃とそんな話をした。
素人が独自でいちごを育てることは困難だとも聞いたが、今回譲ってもらえる苗は比較的育てやすい品種のものだという。
これでいちごが実をつけてくれたら···。
文乃と一緒に摘み取る姿を想像し、星乃は頬を綻ばせた。
『おかしいわねえ······以前ここで見かけたような気がしたのだけれど』
大量の薪や藁が積み重なっている奥に、荷台や餅つき用の臼、使われなくなった自転車などが無造作に置かれている。
さらに奥の壁側にある大きな棚には、旅好きだった曾祖父が各地で手に入れてきたというよくわからない絵画や巻物、書物や骨董品が放置されていた。
ここでこうして埃をかぶっているということは、たいした値打ちもないのだろう。
しかし鉢は一向に見つからず、父様が帰ってきたら尋ねてみるしかないわねと、星乃は作業の手を止めた。
今日は文乃の病院の日で、林道も文乃に付き添い隣町まで出払っている。
屋敷の離れにある納屋は周囲に雑草が生い茂り、むわりとした青い薫りが風に流れて蔵の中までやってくる。
晩夏とはいえ、まだまだ寝苦しい夜が続いていた。
ふう、とひたいの汗を拳で拭ったそのとき、背後でかさりと物音がした。
刹那、星乃はぎくりと身体を強張らせた。
『やあ、星乃ちゃん』
清二がそこに立っていた。
『っ、清二さ、どうしてここに···?』