第13章 過ぎ来し方、草いきれ
清二は星乃の上に馬乗りになり、星乃の両手をいとも容易く帯締めのようなもので縛り上げると、夜の衣の衿を乱暴に開かせた。
昂った清二の呼吸音が、寝間中に反響する。
はだけた胸もとに清二の頭がとん、と落ち、星乃はビクリと体躯を大きく仰け反らせた。
( これは···なに···? どうして、こんな··· )
心の中で何度も何度も拒絶する。しかし押さえつけられていた口もとから清二の手が離れても、星乃のそれは声にならない。
( 誰か···父様、婆様、助けて···こわい···いやだ )
───誰か······!
『···っ、ぅ』
ようやく零れ出たそれは、小さな嗚咽と涙だけ。極度の恐怖と悪心 (おしん) から、星乃は打ち震えることしかできずにいた。
清二の熱が首筋から鎖骨を這い、星乃の肌が一層とあらわになってゆく。
生ぬるい感触が乳房の先端を伝った。ふう、ふう、と、激しい吐息が胸もとを容赦なく刺してくる。
『っ、ふ···文乃ちゃんは、あんなにも、ひ、控えめなのに、君ときたら、見るたびこんな、厭らしい身体になって···っ』
『ぅ、ぅぅ』
『き、君がいけないんだ···っ、こ、こんな身体で、僕を誘うから···っ』
清二がぶつぶつと訳のわからぬことを口にしている。
頭の上で縛られている手の感覚はとうにない。
これまで、自分は決してか弱いものではないと思って生きてきた。少なくとも、同じ歳頃の普通に暮らす娘らよりは、例えこの身に災いが降りかかっても跳ね返してしまえると、どこかで過信していたほどに。
実際の、この身体のなんと非力なことだろう。
星乃の心は錯乱に近い状態でいた。
清二を誘っただなんて、まるで身に覚えのないことだ。
涙で滲む視界の先で、障子戸にうっすらと照る月明かりを見た。
月光が、障子の白をほのかに青白く染めている。
『っ、』
ぐ、と広げられた足。
次の瞬間。
『─っ"、ぅ、ぁぁ"』
信じられないほどの激痛が一気に全身を駆け巡った。