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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第13章 過ぎ来し方、草いきれ



 カタン。

 物音がたち、肩を飛び上がらせた清二の首が恐る恐るこちらに回る。すると、わずかに開いた隙間から覗く星乃の双眸と視線が交った。


 ───見つ、かった···っ!!


 臓腑を踏みつけられでもした有り様で、清二の顔はみるみるうちに血の気を引かせた。

 清二は周章狼狽 (しゅうしょうろうばい) し、手にしていた襦袢と湯文字を放り投げると星乃を寝間へ引き込んだ。

 短く、か細い悲鳴が星乃の唇から零れる。それごと、星乃は寝間へと押し込められた。



『せ、清二さ···いったい、なにを』



 着流しで隠れた陰茎は、しかしまだ前身頃に形をくっきりと成している。とてもじゃないが正視できない。

 星乃は嫌悪をあらわにし、清二から顔を背けた。



『まってくれ星乃ちゃん···っ、これはその、違うんだ···!』

『こ、このところ、肌着がなくなるのは、清二さんの』

『魔が差しただけなんだ···っ、頼む、どうか黙っていてくれないか···!!』

『や···!』



 清二の手が腕に触れ、弾き返すように振り払う。

 ご、ごめん···!
 言いながら、清二はふらりと後退った。



『ふ、文乃のものにも、こんなことをしているのですか···っ』

『してない、してないよ···っ、文乃ちゃんはほとんど部屋から出られないし、それに、ほら、文乃ちゃんの身体は、痩せているから』



 沸々と頭に血が昇る。そのせいで、このとき星乃は清二が口走った言葉を拾いそびれた。



『だからといって、こんなこと、どうして私の···っ、あなたは···っ』



 ぼろぼろと涙があふれ出る。言葉にならぬ言葉を投げつけ、星乃は清二を責め立てた。

 清二は文乃の婚約者なのだ。

 文乃を愛しているはずなのだ。それなのに。



『すまない、本当に申し訳なく思ってる···! もうこんなことは誓ってしない! だから、今見たものは星乃ちゃんの胸のなかだけに畳んでおいてほしい···!!』



 清二が凄まじい勢いで頭 (こうべ) と体躯を低くした。土下座だった。

 頭を畳に擦りつけながら星乃に許しを乞うている。


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