第13章 過ぎ来し方、草いきれ
清二は優しい青年だった。
真面目で、勉学にも熱心で、家があまり裕福ではないからと、成績優秀者は無償で修学できるという制度を取り入れた進学先を目指していると言っていた。
いずれ家族になるひとだ。
星乃も清二を兄のように慕った。
出逢いからしばらくの時が流れたある日、清二がこそこそと星乃の寝間へ入ってゆくところを見た。
寝間に、清二がなんの用だろう。
清二の挙動に妙なひっかかりを覚えた星乃は、こっそりと後をつけ、障子戸の隙間から中の様子を窺った。
そこで目にした光景に、星乃は我が目を疑った。
床の間の横、二枚立ちのふすまの奥から清二が引っ張り出してきたものは、星乃の湯文字や襦袢だった。あろうことか、清二はそれを口もとにあて、恍惚とした表情を浮かべながら浅い呼吸を繰り返している。
あぁ···という、気の抜けた声が聞こえた。清二が着流しを捲り上げると、そこから見たこともない形の男性器があらわになった。
星乃は叫びだしそうになったのを寸前でこらえた。
清二は襦袢を口もとにあて、湯文字で陰茎を包み込み、それを上下に動かしはじめた。
このところ、湯文字がなくなっていることを不審に思っていはいた。時折文乃のところへ紛れ込んでしまうこともあるのではじめは気にとめていなかった。そのうち数が減っていると確信し、いよいよ薄気味の悪さを感じていた頃のことだ。
まさか清二が関係していようとは考えもしなかった。
目の前の出来事が信じられず、頭の中が真っ白になる。そうして我に返った瞬間、星乃は清二のおどろおどろしい行為に震いおののいた。
性の知識は、曖昧なことも多々あるがなんとはなしに知っている、程度のものだ。
男と女の身体の違い。
結婚し、子を成すための。
家族を作る大事な営み。
学舎ではそう教わった。しかしどうだろう。目の前にいるあの奇態な男は本当に清二なのだろうか。
見たこともない顔で、聞いたこともない声を出し、締まりのない口もとからあふれる唾液が襦袢を汚す。
汚ならしい。
底気味悪い。
吐き気がする。
なぜあのようなことをするのか、このときの星乃には到底理解できるはずもなかった。