第12章 ささくれ
柱としての自覚が足りていないのかと思うたび憤慨し、掴みかかる寸前までいく。(毎度行冥に止められるが)
竈門炭治郎の肩を持ったことも気に入らなかった。
鬼となった禰豆子がもしも人間を襲った場合、鱗滝左近次という元水柱の師匠と共に腹を切って責任を取ると言う始末。
柱ともあろうものがたった一匹の得体の知れぬ鬼のためにその命をかけるというのか。ふざけているにもほどがある。
そんなものはなんの保証にもなりはしない。死にたいならとっとと勝手に死にくさればいい。
まったくもって、なにを考えているのかわからない男だ。
「ひとつ聞くが冨岡ァ」
「なんだ」
「なぜお前はあの鬼を連れた隊士を庇う」
「···炭治郎のことか」
「他に誰がいんだよォ、鬼を連れた隊士なんざ前代未聞だぜ」
ぱしゃり。
両手で湯を掬い上げ顔を洗うと、義勇はすぅ···と息を吸った。
「···あれは、二年以上も前のことだ」
「聞く気も失せるわァ」
「······」
なぜだ。
義勇はもの問いたげな顔で斜め上を見た。
夕刻に差しかかろうとしている階調の空が美しい···ではなく、確か以前しのぶにも同じような反応をされたことを思い出し首を傾げる。
「とにかく俺はあの野郎を認める気はねぇし、肩をもつテメェも気にくわねェ」
「······」
「おい、黙ってねぇでなんとか言えやコラァ」
義勇は微動だにせず口を閉ざしたままでいる。
とうとう痺れを切らした実弥は、乳白色から覗く肩を怒りに任せて強く引いた。
「!?」
「······」
「っ、冨岡ァァア···! テンメェェ······」
実弥が目の当たりにしたそれは、真っ赤な顔で失神しかけている義勇の姿。
義勇の肩から実弥の手が滑り落ち、ふらり、傾いた身体がぶくぶくと湯の中へ沈み込む。
ビ、キィ···ッ!!
瞬間、実弥のひたいに極太の青筋が浮かび上がった。
「───…のぼせてンじゃねェェエ…ッ!!」
実弥の怒声が里山に響き渡る。
周囲の木陰に潜んでいた鳥たちが、一斉に飛び立った。