第11章 律呂の戯れ
「柱となればより任務は困難を極める。不死川は、出来る限りのことをしてでも飛鳥井を危険から遠ざけたいのだろう。まったく、どこまでも不器用な男だ」
知らなかった。
だって、実弥はそんな素振りひとつだって見せなくて···。
じわじわと目頭が痛みだす。唇を結んで慟哭を押し殺しても、腹の底から膨れ上がる切ない想いに身体が震えた。
実弥は、肝心なことは、いつだってそう。
つらいことは、なにもかも、すべて一人で背負おうとする。
「────…っ」
ぼろぼろと、星乃の頬に大粒の涙がとめどなく流れた。
「飛鳥井、」
「っ、不器用にも、程があります···っ、そうやって、自分ばかりを犠牲にして、いつだって、自分のことは二の次で···っ」
実弥は否定するだろう。そもそも、己に関して無頓着なところもある実弥。自己犠牲というその想念を、きっと実弥は持ち合わせていないのだ。
己が二の次という自覚もないから選択に迷いもない。だから意見を求められることもない。
私は実弥になにをしてあげられているだろう。
知らぬ間に、当然のように守られてばかりいる自分が心底情けなくて泣けてくる。
「だが、何が正しいことなのかは、私には判断しかねる。それが不死川のやり方なのだと思うと、なかなかこちらがあれこれ口を挟めないのも現状なのだ。···弟のことも」
───弟。
「···玄弥くんは、元気でやっていますか」
「玄弥のことを知っているのか」
涙を拭い、「実弥から、少しだけ」
星乃は小さくうなずいた。
「まだまだ危なげなところも多いが、持ち前の負けん気で懸命に修行に励んでいる。無闇に案ずることはない」
「二人が面会することは、叶わないのでしょうか······」
「不死川が頑ななうちは難儀であろう。玄弥にも、今は大人しくしていろと言ってある」
「実弥は、誰より玄弥くんを大切に思っています」
「ああ。今、不死川の心を支えているのは 、玄弥が生きているということと、飛鳥井、君がいてくれることなのだろう」
行冥はほんのりと微笑んだ。