第11章 律呂の戯れ
長い間、誰より傍で匡近と苦楽を共にしてきた。
そんな自分が、匡近の想いを手離してどうするの。
時間はかかったが、星乃は鬼殺隊に復帰した。星乃の身体に流れる飛鳥井の血。自分は鬼狩りの家に生まれたのだという使命感もまた、そうさせたのかもしれない。
「飛鳥井は、柱になりたいと思うか?」
「え?」
「ああ、いや、唐突にすまないな。もしも柱を目標としているのなら、この話は飛鳥井にとって気落ちするものになるだろうと」
行冥は幅の広い肩をわずかにすぼめ、詫びるように両手を合わせた。
鬼殺隊に入ったからには、階級を上げることを目標に掲げている隊士もいる。単純に、階級が上がれば上がるほど支給される金銭の額が増えるからだ。
柱ともなれば優遇されるものも増える。金銭は無限に与えられる。
欲に目が眩む隊士もいないことはない。だがそうした者は大抵長くは続かない。あまりの過酷さに退くか、どこかで命を落としてしまうか。
なんにせよ、生半可な気持ちでできる生業ではないということだ。
とはいえ、匡近がそうだったように、純粋に柱という存在に憧れている者もいる。
膝の上で絡めた指に視線を落とし、星乃は静かに言葉を紡いだ。
「私は···強くなりたいとは、思っています。けれど、柱になりたいかと言われたら、わかりません。自分がその場所にいる想像がつきません」
「···ふむ」
「ただ、与えられた階級に恥じぬよう、鬼の頸を斬る。それだけです」
嗚呼···と、行冥はまた念珠を鳴らした。
「そうか······本当に、飛鳥井は立派に成長した」
やっぱり、お父さんみたい。
どこかくすぐったい気持ちでこっそりと微笑むと、星乃は思い出したように真面目な顔つきを取り戻し、「それで、実弥は」と話を戻した。
「煉獄に振り分けられていた任務をすべて自分が引き継ぐと言ってきかなくてな。それで飛鳥井の件は無しにしてくれと」
星乃は、震える手を口もとへあてがった。