第11章 律呂の戯れ
『──────…好きだ』
実弥の声が、星乃の耳にふわりとよみがえってくる。
「けれど、私は実弥に、なにもしてあげられないんです」
「生きて、傍にいてやるだけでいい。人間の心とは、それだけで優に救われるものだ。飛鳥井ならばそれができると私は思う」
特別なことはしなくていい。
なにかをしてやろうだなんて思わなくていい。
ただ、どこにでもある、ありふれた日常を。
これ以上、
実弥が手放さなくてもいいように───。
行冥は、嗚咽を漏らす星乃の隣にただ寄り添ってくれていた。
はたはたと、色とりどりの蝶々が舞う。
そよぐ風に葉が揺れる
陽光の隙間にこだまする、澄んだ水の流れる音と、竹筒が置き石を弾く音。
いまだ思う。
実弥には、自分よりも似合いの女性がいるはずだ、と。
けれどもう、
芽吹いてしまった気持ちを抑えておくことができない。
─────…好き。
実弥のことが、好き。