第11章 律呂の戯れ
「悲鳴嶼さん······実弥は今、どれだけの任務をこなしているのでしょうか」
さきほどの会話が気になっていた。行冥もその話をするつもりだったのだと言いたげに、一度頭を縦に振り、「そのことなのだが」と切り出した。
「煉獄が殉職した報せは飛鳥井にもとうに伝達されていると思うが、現在、柱は九名が揃っていない状況なのだ」
その理由で柱が多忙であることには合点がいく。
星乃は頷き、続く行冥の言葉を待った。
「以前、柱合会議で甲から柱を補充すべきだとの議論になっ。飛鳥井も、柱候補の一人として名が挙げられた」
「え···?」
「だが不死川がひどく反対してな。結局、飛鳥井には一時鬼狩りから離れた空白期間もあったことを考慮し見送りとさせてもらったのだが」
星乃は動揺を隠せなかった。
匡近を亡くしてから、星乃はしばらく鬼殺隊から離れていた時期がある。
刃を振れなくなったからだ。それどころか、家から外へ出られない日が長く続いた。
匡近と新たに築いてゆくはずだった未来が消えた。
匡近のような人間が、なぜ死ななければならなかったのか。
底無しの悲しみが星乃の心を蝕んだ。
そんなとき、毎日のように星乃の家まで足を運んでくれたのが実弥だった。料理下手でもあるなまえのことだ。作る気力も湧かないだろうと、毎日玄関先まで食べ物を持ってきた。
任務に出向き頂戴したという甘味や果物。山で取れた魚や山菜を簡単に調理したもの。実弥が握ったおむすび。
当時は柱に昇格したばかりの身だ。さぞ負担をかけたことだろう。
遠出の任務へ出向くときは数日分の食糧を預けてくれた。
『刃を振れない剣士なんざ足手まといになるだけだ。辞めちまえ』と実弥は言った。厳しい物言いであったがそれも実弥の優しさだった。
星乃自身も、そのほうがいいのかもしれないと思った。だが、仲間たちのことを思うと決断しかねた。
なにより、匡近と共に歩み続けてきたこれまでを、容易に手離すことが、星乃にはできなかった。