第11章 律呂の戯れ
竹垣の向こう側で、実弥と行冥は任務の話をしていた。
『一人で抱えすぎだ』と言った行冥の声が、星乃の耳に届いた。
柱は常々任務に負われている。けれど、今の会話から察するに、行冥がそう口にするほどの任務を実弥はこなしている、ということだろうか?
それも、一人で?
「お館様も気にされている。皆で分担できるものはしていけばいい。頼れ」
「別段、問題はねぇよ」
「──不死川」
行冥の傍らを通り過ぎようとした実弥の足が、巨躯の真横でぴたりと止まった。
拒むようにすり抜けてゆこうとした実弥を一言で制してしまう行冥は、やはり、ただ者ではない。
風がそよぎ、家屋を囲む青々とした木々が葉を揺らす。
かこん、と、ししおどしの竹筒が置き石を弾く音が響いた。
「·········頼みます」
観念したようにそう発すると、実弥は再び蝶屋敷の本邸へと戻って行った。
行冥は、まるで父のような面持ちで実弥の背中を見送っている。
ふいに、行冥がこちらを向いた。
ドキリとした。
「飛鳥井、少々時間はあるか」
穏やかな面持ちの行冥に安堵し、大丈夫です。と、星乃も微笑みを返しながら答える。
行冥がやってくると、まるで歓迎するように、蝶々がひらひらと集まってきた。
「しばらく会わぬ間にずいぶんと隊士としての貫禄がでてきたな」
「そう、ですか? 悲鳴嶼さんにそういってもらえるのはとても嬉しいです」
「新人の頃をよく知る者の成長した姿をこのようにして感じられるのは、感涙にむせぶような気持ちにもなるものだ」
ジャリジャリジャリ。念珠を合わせる行冥の双眸から一段と涙があふれ出る。
「だが、何よりも有難いことは、こうして無事を確認できることだろうな」
「悲鳴嶼さん······」
二人は家屋の縁側に腰を下ろした。
鬼殺隊に入る以前の行冥は、身寄りのない子供たちを寺に引き取り、親代わりとして共に暮らしていた。
ある夜、鬼に寺を襲われるまでは。
星乃は詳しい経緯は知らない。知っているのは、盲目をものともせず、己の身体に鞭を打ち続けて鬼殺隊にいるということ。
そうさせるだけの想いが、彼にあったのだろうということ。