第11章 律呂の戯れ
【悲鳴嶼行冥】
鬼殺の剣士、屈指の実力者である。現鬼殺隊隊士の中では最年長で、耀哉からの信頼も厚い。
盲目という不具を抱えてはいるものの、それをまるで感じさせない行冥の身体能力は鍛練の積み重ねと共に向上し続け、今では戦闘において "最強" とまで囁かれているほどの柱である。
上背は七尺以上あり、さきほどの天元よりも一層巨躯だ。
「胡蝶がお前を探していたぞ不死川。化膿薬を取りにいっている間にいなくなってしまったと。背に怪我をしているのだろう」
「怪我っつっても、もうほとんど塞がって」
「菌が入って化膿しているそうじゃないか。それは塞がってるとは言わん。早く戻れ。胡蝶をあまり困らせるな」
「······」
実弥は沈黙した。返す言葉もないようだった。
他の者から同じことを言われたら、やれああだこうだ反発していたかもしれない実弥。
そんな実弥も行冥の言うことには素直に従う。
剣士としての実力も、年長者としての言葉の重みも、敵わない存在であると認め、尊敬しているのだ。
出血している様子は見られなかったので、勝手に安堵していた。怪我はどの程度のものなのだろうか。
実弥の場合、小さな怪我であればほうっておくか自己流の手当てで済ませてしまうこともある。しかしこうしてわざわざ蝶屋敷までやってきたということは、しのぶに頼らなければ治らない怪我であるからだ。
化膿した傷は治りにくいし、最悪全身の疾患に繋がる恐れもあると聞く。
「実弥···ひとまず戻ってちゃんと手当てをうけましょう」
行冥の手前怪我を否定することもできないし、中断された話を元に戻すこともできない。
「···ああ」と渋々返事をし、おもむろに歩き出した実弥は、すれ違い様、星乃を見なかった。
「他に何か用があって来たんじゃねぇのか、悲鳴嶼さんよォ」
「察してくれたのなら助かる。実は、不死川の任務を俺が幾つか預かることになったのだ。承知してくれ」
「なに······?」
「不死川が自ら言い出したこととはいえ、一人で抱えすぎだ。このままでは身体がもたんぞ」