第11章 律呂の戯れ
実弥は星乃に少々怪訝そうな面持ち向けた。
実弥は一頃、自分は生涯独り身を貫くつもりだと言っていた。まだ星乃が実弥の過去を知る以前のことだ。
実弥が誰より鬼の殲滅に心血を注いでいることはわかっていた。
雨が降ろうが槍が降ろうが、必ず鬼舞辻無惨を屠ってみせるのだと、ただ、そのためだけに己を捧げて鍛練に励む日々。
他の隊員たちが浮いた話で盛り上がっても、匡近がその話題を振ろうとも、頑固一徹、実弥は「興味ない」の一点張り。
そんな寂しいことを言うなよと、当時匡近はよく合間を見つけては実弥を外へ連れ出していた。
『なんでもいいんだ。鬼狩り以外の世界に触れているうちに、ふとしたことがきっかけで、考えかたが変わるかもしれないじゃないか』
『例え実弥の境遇がどんなものであろうとも、ひとつの物事にひたすら打ち込める実弥なら、きっと誰か良い人に巡りあったとき、生涯を寄り添っていけるはず』
『鬼狩りをしているからといって、必ずしも死が待っているとは限らない』
『本当は、実弥は誰よりも優しい男なんだ』
星乃もまた、匡近と同じ想いでいた。
いつの日か、実弥が素敵なひとに出逢えますように。そう願っていた。
実弥には、自分なんかよりももっと素晴らしい女性がいるはずだ。
「···おい」
「不死川、こんなところにいたのか」
半歩、踏み出しかけた実弥の名を呼んだ人物がいた。
庭を囲う竹垣に目を配る。
星乃ならば隠れてしまう高さの竹垣の向こう側、大柄な主がこちらを向いていた。
「ああ、すまない。客人と一緒か」
そう言うと、声主はジャリジャリと念珠を擦り合わせた。
「あ···、悲鳴嶼さんご無沙汰しています···っ、私です、飛鳥井です···!」
念珠の動きがぴたりと止まり、男は「飛鳥井」と口にした。
「道理で身に覚えのある気配だと······そうか、飛鳥井か。本当に久しいな」
盲目の双眸が、眉尻と共に穏やかに下がる。