第11章 律呂の戯れ
スカッ。ドサドサッ。
頭突きが炸裂すると思われた状況は炭治郎の空振りにより事なきを得た。
炭治郎の攻撃を、天元はひらりとかわしてみせた。
炭治郎は咄嗟にすみを庇ったのだろう。すみよりも先に落下し、すみの下敷きになっていた。きよもカナヲのおかげで無傷だ。
一方で、アオイとなほは天元からまだ解放されないでいる。
実弥がチッと舌打ちをした。
「···いくぞ」
「え···? でも、」
「宇髄の任務はあの野郎が買って出るだろォ」
実弥は横目で炭治郎を睨みつけると、再び天元たちに背を向けた。
炭治郎がいまだ鬼の禰󠄀豆子と共にあることを、実弥は快く思っていない。しかし、組織のなかで決議した案件である。
あれから禰󠄀豆子が何か問題を起こしたという話はなく、それだけが救いだった。
そっと、星乃の腕がまた実弥に引かれはじめる。
黄色の髪をした少年と、不思議な生物 (上半身は人間の裸なのに頭が猪···?) の姿があることにも気づいたが、彼らが何者であるのか、このときの星乃はまだ知るよしもなかった。
蝶屋敷には、一年を通して様々な蝶々がひらひらと舞っている。
季節ごとに庭を彩る花々の種類が豊富なおかげかもしれない。
実弥は、どこへ向かっているのだろう。
足早に天元たちから離れたと思ったら、いつしか頬を切る風が柔く穏やかになっていた。
ひらりひらりと、色とりどりの蝶々が視界に映り込んでは消えてゆく。
あれから、実弥はずっと無言だ。
星乃も声をかけることが出来ずにいた。
掴まれた手首に実弥の熱が溶けてゆく。そんな風に感じるたびに、また胸がぎゅっと締めつけられて、泣きたくなる。
蝶屋敷の本邸から少し離れた場所に位置する別邸は、茶室として作られたものらしい。普段は滅多に利用されることのない場所で、閑寂な空気に包まれていた。
生い茂る木々が日光を遮っていて、家屋そのものが日陰になっている。そのせいか、体感温度が少しだけ下がる。
ほとんど利用されていないといっても、置き石に囲まれたししおどしの水は濁りもなく、庭全体も綺麗に手入れされている。