第11章 律呂の戯れ
阿修羅のような形相でがなり立てる天元の迫力は、星乃が見ても縮こまってしまうほどのものだった。すみが泣き叫ぶのも無理はない。
カナヲの身体もズルズルと地面を引きずられてゆくばかり。
「「と、突撃ー!!」」
「ちょっ···てめーら!! いい加減にしやがれ!! おい不死川! んなところからシラけた顔で眺めてねぇでなんとかしろ!!」
「知るか、そりゃテメェの問題だろうがァ」
身動きがとれなくなっても決して二人を手離そうとしない天元に、少女たちも全身全霊でしがみつく。
こんな状況で不謹慎かもしれないが、アオイとなほを抱えた天元にすみときよまで乗っかると、まるでうら若き乙女たちが色男を奪い合っているようにも見えてしまうのだから不思議なものである。
良いも悪いも、眉目秀麗な男とはそういうものなのかもしれない。
ハァ、と実弥が呆れたように息を吐いた。
「一体何がしてェんだァ? 宇髄の野郎はァ」
「女の子に何してるんだ!! 手をはなせ!!」
突如怒号が放たれたと思ったら、とある人物が屋敷に姿を現したのを、星乃は見た。
竈門炭治郎。
彼である。
天元目指してその身ひとつで飛び込んでゆく勇敢な炭治郎を目の前に、しかし星乃に嫌な予感が走ったのは言うまでもない。
それは以前煉獄家で起きた騒動と同じ類いの状況だったからだ。
この炭治郎、大人しそうな顔をして実はとんでもなく血気盛んな少年だ。
同時に、なんて彼らしいのだろうと、星乃は高く飛び上がった少年を自ずと双眸で追いかけていた。
真っ直ぐで、相手が誰であろうと己を顧みずに立ち向かってゆく彼の姿は、どこか匡近に重なった。
グン、と炭治郎の頭が振り上げられる。