第2章 鼓動の音は、不規則なみぞれ
星乃には実力があると、それは実弥も認めている。幼い頃から父親のもとで学んできただけあり勘もいい。
近頃の隊士は驚くほど質が落ちていると辟易 (へきえき) する実弥に継子はいなかった。
苦渋の末、星乃なら、との思いが頭を過ったこともあったが、やはり受け入れられなかったのには、様々な理由があった。
星乃は自分の師である育手の娘だ。剣術の学びの歴は自分よりも遥かに長く、鬼殺隊への入隊も星乃が先だ。
鬼殺隊の昇格に入隊歴など無関係なことは百も承知だが、そもそも柱になるきっかけとなった下弦の壱を屠 (ほふ) ることができたのは、自分一人の力ではない。
あれは、匡近と二人で成し遂げたものだ。
しかし、柱となったのは自分だけ。
そのことが、しばし実弥の心にわだかまりを残し続けていた。
『星乃は既に基礎が完璧にできあがっている。俺が指南してやれることは何もねェよ』
そう告げると、星乃はしぶしぶ納得したようだった。
「あら、また増えたのね、カブトムシ」
風柱邸の玄関に踏み入ると、入ってすぐの壁際に大きな虫籠が置かれている。
鈍色の細かな鉄格子できたそれは鳥も飼えるだろうほど大きさのある真四角で、その中には五頭の成虫のカブトムシがいた。
どの其れにも角があり、皆、雄のようだ。
「······増えてはねェだろォ」
「この間来たときはこの子がいなかったわ。ほら、角がすごく立派」
「あァそうかィ、よかったなァ」
確かに一頭増えていた。
星乃があまりに嬉しそうな顔をしてみせたので、実弥は気恥ずかしくなり思わず素っ気のない意味の不明な返答をした。
実弥の趣味はカブトムシを採取し育てることである。さらに、好物はさきほども食していたおはぎだ。
実弥のそういった一面をもっと多くの隊士が知れば、過剰に怖がられることもなくなるのに。
実弥を気にかける星乃の思いとは裏腹に、どうやら実弥はこれらをあまり他人に知られることが好きではないらしかったので、星乃もあえて口外はしないのであった。
「雌のかぶとむしは飼わないの?」
「大半は雄だなァ」
「どうして? 角がないから?」