第2章 鼓動の音は、不規則なみぞれ
実弥の技の特性を利用して、自身の身体を旋回させながらの攻撃。
いける、かもしれない。
はじめて生まれたほんのわずかな手応えに、星乃の鼓動が高鳴った。
そう思えたのは、甘い夢だったか。
───ドンっ!!
「···うっ!」
木刀が脇腹を掠めたと思ったら、星乃は地面に背中を強く打ち付けていた。
かろうじて直撃を免れたのは、咄嗟の判断で身を交わしたからだった。
しかし、掠めただけで吹き飛ばされてしまうこの威力。地に叩きつけられる寸前に回転し受け身を取らなければしばらくは起き上がれなかっただろう打突だ。
「漆ノ型までだったはずだぜェ、季の呼吸は」
星乃の前に、素っ気なくも実弥の掌が差し出される。
血の滲むような鍛錬を覗かせる、皮膚の分厚い逞しい手。
「っ、そう、ね。惷塵飄来は、私が編み出した、型よ」
熱い。実弥の手を取り星乃は思う。
自分の身体もだいぶん熱を上げてはいるものの、それをより上回る熱さが実弥の掌から放たれていた。
「打ち込みと回転の威力がまだまだだ。甘ェ」
「数日前に、ようやく形になったの。実弥に一番に見てもらいたかったから、出来てよかった」
「まだ不完全だが、応用も効くだろう型ではある。磨きかた次第ってとこだなァ」
「精進します」
四季折々を思わせる、淡い虹色紅葉の羽織をはらりと脱ぎ捨てて、星乃は再び実弥に手合わせを願い出た。
実弥が掌を結んで開く。
ポキ、と小気味よい音を発したのを合図に、二人は水面からはね上がる魚のごとく互い目がけて地を蹴った。
鬼という存在の詳細は、現時点では不明なことも多い。
星乃が父から聞かされたのは、千年以上前、古の時代より鬼は存在しているということ。
もとは皆、人間であったということ。
そこには【鬼舞辻無惨】という鬼が関係しており、鬼舞辻は鬼の始祖であること。
奴の血により人間は鬼へと変貌させられ、人の血肉を喰らい何百年と生き永らえること等だ。
鬼は皆、鬼舞辻の支配下にある。
奴が死ねば鬼は全滅するとも云われているが、巧妙に姿を隠しているため奴を目にしたことがある隊士はいまだ皆無。柱でさえ遭遇したことはないという。