第2章 鼓動の音は、不規則なみぞれ
いや、そんなものは単なる悔し紛れに過ぎないのかもしれない。鬼殺隊としてここにいる以上、性別でとやかく言われぬために日々鍛錬に励んでいるのだから。
一年前とは比べものにならぬほど強くなっているという自負が、星乃にはある。
昨日の自分よりも今日。今日の自分よりも明日の自分は更に強くなっているのだろうと。
それでも、ふとしたときに思ってしまう。
日々技を磨く努力を惜しまず鍛練に励むのは最低限の儀。皆がやっていることだ。だが、生まれながらに恵まれた才や体格を持つ者がいるのもまた事実。
自分が努力で培ってきたものを易々と飛び越えてゆくような圧倒的強さを目の当たりにしたときの羨望は、今でも星乃の胸をチリリと焦がし続けてやまない。
「余計なこたァ考えんじゃァねェエ!! 塵屑共の頸かっ切るつもりでそれだけに集中しやがれ!!」
実弥の怒声が鼓膜を貫く。
そうだ、今は、どう動き何ができるかだ。勝つために、何をすべきか。
カンカンカンカンカンカンカンカン!!
瞬刻も途切れぬ木刀の猛然たる打ち合い。
既に星乃は実弥の攻撃をかわすことしかできなくなっている。隙がまるで見つからない。
星乃は顔つきをより一層険しくさせた。
カン!!
実弥の猛攻を上に向かって受け流し、体勢を整える。
斜め後ろに跳んだ先、大木の幹に着地した直後、実弥が既にこちらに向かって来るのが見えた。
速い。さすが、瞬発力が並みじゃない。
また、──くる。
"風の呼吸 壱ノ型"
『 鹿 旋 風・削 ぎ 』
"季の呼吸 捌ノ型"
『 惷 塵 飄 来 』
「───!」
はっとしたように、実弥の双眸が見開かれたのはそのときだった。
竜巻のごとく突進する実弥の『鹿旋風・削ぎ』に、これまで星乃は長らくその身を交わすことしかできずにいた。しかし今、星乃の双眸には思いがけないものに遭遇したような実弥の表情が映し出されている。
刹那、空中で体勢を変化させ、星乃は実弥の前から忽然と姿を消した。
「いいや、上かァ···!!」
ザアァァア!!
春嵐によって巻き上げられる塵のような目眩まし。