第9章 花札の耳飾りは慈しみに揺れ
「え!? あわ、わ、その···はい、実は」
思いのほかあっさりと、炭治郎はそれを認めた。
素直な子だなあ···。星乃の唇からくすりと小さな笑みが零れる。
鬼の気配はいまだ色濃く漂っていた。それなのに、張り詰めていた緊張感はいつしかすっかりとほぐれている。これも、炭治郎に不思議な人徳があるせいなのかもしれない。
「怪我が完治するまでは無茶しちゃだめよ。帰ったらしのぶちゃんに大目玉だと思うけど、ゆっくり休んでね」
「はい···。しのぶさんのことは、覚悟してます」
炭治郎は苦笑した。
「そういえば、今さらなんですが、飛鳥井さんは煉獄さんとはどういったご関係なんですか?」
臙脂色の双眸が、純粋な光を放って問うてくる。
「私、杏寿郎とは幼なじみなの。いろいろあってしばらく音沙汰は途切れていたのだけれど···つい最近、再会できたばかり、だったのに」
──いけない。
堪えていたはずの涙がまたあふれてきそうになってしまい、星乃は声を飲み込んだ。すると、炭治郎が「え?」と双眸を丸くした。
「···もしかしたら、煉獄さんのあの言葉は、飛鳥井さんへの、ものなのか···?」
「杏寿郎の、言葉···?」
「実は、槇寿郎さんと千寿郎さん以外の誰かにも、煉獄さんは言付けらしきものを呟いたんです。でも、お相手の名前を聞く前に···」
炭治郎の伏せた睫毛が微かに震える。
「名前は···聞けなかったんでしょう? ならそれが私へのものかはわからないわ」
もしも別人へ宛てたものだったとしたら···自分が受けとって良いものじゃない。
「確かにそうです。ただ、煉獄さんは言っていました。"幼馴染みの女性"だと」
星乃が知る限り、自分以外の女性の幼馴染みと呼べる人物が杏寿郎にいたという話は聞いたことがなかった。
それでも、もしも違ったら···?
杏寿郎の最期の言葉だ。なんとしてでも、大切な想いは正しく成就させてあげたい。
「なので、煉獄さんと親交の深かったかたを探そうと思っていたんです。そしたら、その幼馴染みの女性がわかるかもしれないと思って」
「きっと、星乃さんのことで間違いないと思います」
横からふわりと言葉を乗せたのは、千寿郎だった。