第9章 花札の耳飾りは慈しみに揺れ
千寿郎と向かい合い、炭治郎はゆっくりと語り始める。
丁寧に、大切な贈り物を手渡すように、一語一句しっかりと。時折、涙声を飲み込みながら。
「···立派な、最期だったと、俺の口から煉獄さんの死を肯定するには、正直まだ、無念のほうが勝ってしまいます───…けれど」
有言実行の、人だった。
乗客を守るため、全身全霊で戦い抜いた。
灼熱の信念と強固な意志に見せられた、剣士としての生き様。
最期まで、無念のひとつも口にせず、気高くも優しく微笑んでいた。
杏寿郎は、立ち止まるなと言ってくれた。
たった一人で。命をかけて、身をもって強くなれと自分たちを鼓舞してくれた。
仲間を信じると。
君たちを、信じると。
心を燃やせと。
すべてを話し終えたあと、杏寿郎は不思議なほど穏やかな微笑みを携えて、安堵したかのように双眸を静かに閉ざした。
他を寄せ付けぬ凄まじさに手も足も出ず、臍 (ほぞ) を噛む思いだと悔しさを滲ませながら、旅立つ間際、槇寿郎と千寿郎に遺した言葉が炭治郎の唇から紡がれる。
星乃はぐっと涙をこらえた。
千寿郎は、泣いていた。
蜜璃以降、杏寿郎には継子がいなかった。弟の千寿郎も共に稽古に励んでいたが、千寿郎の日輪刀は色変わりを見せなかったという。
「剣士になるのは、諦めます」
悔しさがないわけではない。それでも、兄の言葉を噛みしめながら、己自身をも納得させるような面持ちで、千寿郎はそう言った。
「剣士以外の形で人の役に立てることをします」
自分のせいで炎柱の継承が絶たれてしまうかもしれないことに、千寿郎は長い間後ろめたさを感じていたのだ。
けれども、兄はきっと許してくれる。
千寿郎の言葉に、星乃も頷く。
『自分の心のまま、正しいと思う道を進むよう伝えてほしい』
それが、
千寿郎への杏寿郎の願い──。
「お話ができて良かった。お気をつけてお帰りください」
星乃と千寿郎は炭治郎を見送るため外へ出た。
槇寿郎にも声をかけたが返事はなく、しかたなし、門扉の前で二人は炭治郎に深々と腰を折る。
「ねえ竈門くん。もしかしたら、蝶屋敷から抜け出してきたんじゃない?」