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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第2章 鼓動の音は、不規則なみぞれ



 遠方からの攻撃で鬼にダメージを与えることができる優れた剣士ももちろんいるが、大抵は近距離からの攻撃であの醜い頸を一刀両断しなければならない。



「···ほォ、前回より速くなってんじゃァねェかよ」



 実弥の口もとが挑発的に綻んだ。

 反射神経や速度を極める修行は基礎体力向上の鍛練と共に日々の習慣となっている。しかし、称されても、星乃は悔しかった。

 渾身の力の込めた一撃だったのだ。まずは実弥の急所を一気に狙い打ち、怯んだところで首回りに木刀を入れ込むつもりでいたというのに、あっさりと交わされてしまったのだから。

 実弥の体幹は乱れがない。笑みをこぼし、言葉を発する余裕まである。


 ──けれど。


 私だっていつまでも負けていられない。

 ぐっと奥歯を食いしばる。

 今日こそ、
 絶対に実弥から一本取ってみせる──。

 間を見計らい、星乃はひととき緩やかな呼吸を紡いだ。

 腰を低く屈めると、わずか実弥の息が途絶えたのがわかった。




  "季の呼吸 弐ノ型"




 怯むな。止まるな。

 目の前にいるのは鬼。手にしているのは木刀ではなく日輪刀。




  "風の呼吸 伍ノ型"




 実弥も技の体制に入った。



 ──くる。実弥の、凄まじい威力の風が。





    『 漆 草・乱 脈 』


    『 木 枯 ら し 颪 』




 ズザザザザァ!!

 実弥の木刀が振り下ろされる。

 同時にとてつもない風圧が星乃を襲った。鼻と口の空道まで塞がれて、いつ呼吸が絶たれてもおかしくない状況に追い込まれてゆく。
 早く、風と風の隙間を見極め呼吸の道を確保しないと、技を出し続けられなくなってしまう。

 星乃は下から実弥に向かい、無数に木刀を振り上げた。

 『漆草・乱脈』は、枝分かれする葉脈のごとく相手の身体へ刃を乱れ打つ技。しかし速さに重点を置くと.一振りの力が弱まってしまうことが課題であった。



「まだまだだァア! 足りねェ、弱ェ! それがテメェの全力かァア!?」

「···く、」



 言われるまでもなく、全力だ。

 星乃は苦しげな声を吐き出した。

 こんなときは、嫌でも思い知らされるのだ。

 男と女の、圧倒的な力の差というものを。


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