第9章 花札の耳飾りは慈しみに揺れ
杏寿郎から教わった、この煉獄家にある歴代炎柱の手記を見せてもらいたいと言う。
「あの、鬼殺隊のかた、ですよね···?」
星乃が千寿郎の隣に座ると、隊士は改めて確認するように星乃を見た。
「ええ、ご挨拶が遅れてごめんなさい。私は飛鳥井星乃といいます。鬼殺隊の剣士よ。えと、あなたとははじめまして、よね?」
「は、はい、はじめまして、です···! 同じく鬼殺隊剣士の竈門炭治郎といいます···! よろしくお願いします···!」
──竈門。
今、この子は竈門炭治郎と、そう言ったのか。
隊士が名を名乗った途端、記憶に留めていたそれがとろりと流れ落ちてくるのを星乃は感じた。
この子が、実弥の言っていた、"例"の。
「···あなたが、あなたが竈門くんなのね」
「? はい。えっと、俺のこと知ってるんですか」
きょとんとした顔で、炭治郎は臙脂色の双眸をしばたたかせた。
ならば······。
炭治郎の隣に置かれた長方形の木箱へちらり。視線を送り、こっそりと息を呑む。
さっきから、いや、炭治郎に会ったときからずっと感じていた異質な気配。
それは、
あの中にいる鬼の───。
「あのう···?」
不思議そうな面持ちで、炭治郎は小首を傾げた。やはりその顔色は思わしくなく、今すぐにでも寝床で休ませてやりたいという哀れみが生まれる。
殺意は、まるで感じない。だから、警戒しなくても大丈夫。
そう己に言い聞かせ、星乃はひとまず気を落ち着けることに努めた。
変に構えるのも失礼な話だろう。けれど、鬼がすぐ傍にいるのだから構えるなというのもまた無理な話で···。
鬼殺隊として間違った心持ちではないはずなのに、この竈門炭治郎を前にすると己がひどく無慈悲な生き物のように思えてくる心境に若干の戸惑いを覚えてしまう。
炭治郎は、星乃が想像していたよりずっと普通の少年だった。濁りのない双眸はとても綺麗だ。
「あなたのこと、少しだけ聞いていたから」
「俺のことを···? あなたはいったい」
「えっと、なんて言ったらいいのかしら···。私の使用する呼吸は風の派生でね。弟弟子には、不死川実弥がいるのだけど」
「しなずがわ···」