第9章 花札の耳飾りは慈しみに揺れ
「お前が"日の呼吸"の使い手だからだ。その耳飾りを俺は知っている。書いてあった!」
【日の呼吸】と聞いて、ふいに過去の記憶が巡った。
星乃は以前、炎の呼吸を火の呼吸と呼んではいけないと教えられたことがあった。
明確な理由は不明だ。だが槇寿郎のいう日の呼吸というものが存在するなら、もしか、それと区別するためなのだろうか···。
「そうだ、"日の呼吸"は、あれは!! 【始まりの呼吸】!! 一番初めに生まれた呼吸、最強の御業!! そして全ての呼吸は "日の呼吸" の派生!! 全ての呼吸が日の呼吸の後追いに過ぎない!!」
槇寿郎は激しい口調で言い放った。
「日の呼吸の猿真似をし劣化した呼吸だ!! 火も水も風も全てが!!」
自分たちの使用する呼吸が一体どこからきたものなのか、深く追究したことはない。
ただ、指南書に記されていることを知識として得てはきた。
呼吸の主となるものは、炎、水、岩、風、雷。
これらが基本となっていて、時代の流れと共に人々は自分に合った呼吸法を派生として生み出してきた。
星乃の呼吸は風の派生で、春夏秋冬の季節風から初代が名付けたという。まだ歴史の浅い呼吸だ。
槇寿郎の言うことが本当ならば、呼吸の五大基礎も日の呼吸の派生で、さらにこの隊士は始まりの呼吸とやらの使い手ということになる。
「日の呼吸の使い手だからと言って、調子に乗るなよ小僧!!」
あまりの気迫に、星乃は言葉もなく、槇寿郎と隊士のやりとりを眺めるしかなかった。
剣士を辞めたのは、それも理由······?
星乃のなかに、ひとつの推測が生まれる。
確かに、炎の呼吸は強い。
基本の五つのなかでも歴史が古く、習得することの難しい呼吸だ。そんな炎の呼吸の使い手としての自負心を、槇寿郎は打ち砕かれてしまった···のかもしれない。
真面目で、炎の呼吸の歴史を誇り、極めてきたひとだからこそ。
ところが、隊士は血相を変え、突如憤慨した。
「乗れるわけないだろうが!! 今俺が自分の弱さにどれだけ打ちのめされてると思ってんだ、この」
糞爺!!と罵り、煉獄さんの悪口言うな!!
隊士は槇寿郎に向かって飛び込んでいった。