第9章 花札の耳飾りは慈しみに揺れ
「あまりにも酷い言い方だ。そんな風に言うのはやめてください」
隊士は強い口調で反論する。
「何だお前は、出ていけ、うちの敷居を跨ぐな···」
酒壺を手に隊士を指差す槇寿郎。次の瞬間、──バリン···!!
落下した酒壺が、名を告げようとした隊士の声を遮り敷石の上で粉々に砕けた。
飛び散った強い酒の匂いが風に乗り、星乃たちのほうまで漂ってくる。
「······お前···そうかお前···」
バリ、バリ。
酒壺の破片を踏みながらふらふらと敷地内から出てくると、槇寿郎は唐突に激しく隊士に詰め寄った。
「"日の呼吸"の使い手だな? そうだろう!!」
「···? 何のことですか?」
ドガァ···ッ!!
凄まじい衝撃音と大量の砂埃が辺りに舞う。何事かと双眸を見張った先で、耳飾りの隊士は槇寿郎に地面に叩き伏せられていた。
「父上!! やめてください!! その人の顔を見てください、具合が悪いんですよ!!」
「うるさい黙れ!!」
「きゃあ! 千寿郎くん!!」
止めに入った千寿郎が投げ出され、地に倒れ込む。
星乃が慌てて駆け寄ると、千寿郎は口の端に血を滲ませていた。
「千寿郎くん、大丈夫···っ」
「いい加減にしろこの人でなし!!」
背後から怒声が放たれ、振り返る間に轟音がした。今度は隊士が槇寿郎に一撃を食らわせた。
しかし、槇寿郎は無傷だ。
過去に鬼殺隊で柱にまでなった男である。攻撃を上手く受け流し、すかさず隊士から距離を取る。
「さっきから一体何なんだあんたは!!」
隊士は叫ぶ。
「命を落とした我が子を侮辱して!! 殴って!! 何がしたいんだ!!」
槇寿郎は眉を歪めぎょろりとした目玉で隊士を見た。
「お前俺たちのことを馬鹿にしているだろう」
星乃はただただ唖然とした。本当に、おじさまは一体どうしてしまったのか。
急いで衣嚢から手巾を取り出し、千寿郎の口もとにあてがる。
「どうしてそうなるんだ!! 何を言っているのかわからない!! 言いがかりだ!!」