第9章 花札の耳飾りは慈しみに揺れ
「····なるほどな」
「なんだよ」
「不死川が彼女を柱にしたがらない理由がわかったということだ」
「···何か思い違いしてるかもしれねぇが、星乃は俺の姉弟子だ」
「だがお前は好きなのだろう? 彼女のことが」
なぜこうも柱たちはことごとく星乃への想いを見破るのだろう。
実弥は奇々怪々の気分で無言のまま眉根を寄せた。
「煉獄亡き今、早々に柱を補充する必要があることは、お前も理解しているはずだ」
「···誰でも構わねぇわけじゃあねェ」
「彼女が有力な柱候補であることには変わらん」
「俺が、させねぇよ」
杏寿郎の訃報を受け、先日緊急の柱合会議が開かれた。そこで新たな柱を補うための候補者が甲の中から幾人か並び、星乃の名も挙げられた。
『俺は煉獄と同等の強さでなければ認めない』
他の柱は比較的前向きな意見を覗かせていたが、実弥だけはそう一蹴し、頑なに候補者をはね除けた。
話し合いは平行線となり、結論は先伸ばしにされたのである。
「まあ、いい。最終的な決断はお館様が下すだろう。だが、覚悟をしておく必要はあるんじゃないか」
「とりあえず上がれやァ。時間まで寝かせろ」
「ならば折を見て起こそう。あと、鏑丸を庭に放っても構わないだろうか」
「あァ、好きにすりゃいい」
柱が欠けた状況が思わしくないことはわかっている。鬼殺隊に籍を置いている以上、一般隊士も危険と隣り合わせの身であることには変わらない。
だが、柱となればより一層任務は厳しいものとなる。十二鬼月にも狙われやすい。そうなれば、守れるものにも限界がある。
死なせたく······ないのだ。
できる限りのことをしてでも。
「しかし、不死川が面食いとはな」
「面食い? そうかァ?」
上り框に腰を下ろし、小芭内が草鞋の紐を解きつつ口を利く。
にょろにょろと延びてきた鏑丸に手を差し出すと、実弥は小芭内の肩から鏑丸を抱き上げた。
「なかなかの美人だ」
「···まァ、否定はしねェが······顔面だけで惚れたどうこうはならねぇだろォ」
「甘露寺には負けるがな」
「···あぁそうかぃ」
「ちなみ俺は甘露寺に一目惚れしたんだが」
「聞いてねェ···」