第2章 鼓動の音は、不規則なみぞれ
木刀を構え、星乃は実弥と対峙していた。
日輪刀は鬼を斬るために作られたものなので、対人稽古の際は基本竹刀や木刀を代用することになっている。
刃を人に向ける行為は公的にも御法度だが、隊員同士の争い事もまた隊律違反と見なされるうえ、場合によっては厳重な処罰の対象となる。
とはいえ、隊士とて人間だ。反りが合わない者同士でいざこざも生じるし、時には喧嘩も勃発する。
例えば取っ組み合いに発展しても大方自己責任として見過ごされる。かといって、任務に支障が生じるほどの大怪我をしてしまっては本末転倒。その場合は鎹鴉を介して厳しいお叱りというものがくだされるのである。
平和主義者でのほほんとしている星乃にお叱りの経験はない。反対に、実弥は血の気が多いから心配だと星乃は密かに気にかけていた。
粗暴で頑固な面が際立つ実弥。その実、とても情に厚い男であることの周囲の認知度は低かった。けれど実弥は場合に応じて礼節もわきまえられるし、規律だって重んじている。
怒りに任せて手が出てしまうこともある。そんな実弥を時折行き過ぎだと感じることはあるものの、そこには必ず彼なりの正当な理由が存在していた。
──全集中・常中。
これを扱える者は柱を含めた少数のみだが、星乃もまた以前より常中を会得していた。
びりびりと、実弥の圧で空気が震える。もののわずかで戦闘態勢に切り替わった実弥を見据え、木刀を力強く握りしめる。
手合わせを願い出るたびに強くなる実弥。弟弟子の実力を肌でひしひしと感じる日々に、負けていられないと星乃は身の引き締まる思いがするのだ。
女だろうが、恩師の娘だろうが、実弥の稽古に怠慢や義理はない。
向かってくるものにはいつだってとことん。
いざ······!
───カン!! と木刀を打ち付ける音が青黒い夜空に響いた。間合いを詰めての至近距離戦。鬼の頸は刃が届く距離でなければ切り落とせない。
日輪刀は、個々の性質に合わせて作られるため様々なものが存在している。
平均より長い刃のものもいれば、ぐねぐねと柔くしなるもの、鎖を用いたものまであって千差万別。