第9章 花札の耳飾りは慈しみに揺れ
「っ、おいしい」
汁椀に口付けた星乃は開口一番感嘆の声を漏らした。
箱膳に並ぶ品は一汁三菜。
ほくほくの白米に、具沢山の芋煮汁。キャベツと昆布の和え物にかぼちゃの煮付け、しめじの佃煮。さらには豆皿にきゅうりと大根の漬物も添えられている。完璧御膳である。
「お肉の臭みも気にならないわ」
「···下処理したからなァ」
なんと、料理に下処理などという工程があるのか······。
心のなかでうーむ···と唸り、星乃はまた芋煮の汁を一口啜った。
芋煮汁には牛の肉が入っていたが、苦手な臭みはほとんど感じられず、箸が進む。
「実弥がお料理できることは知っていたけど、まさかここまでとは思わなかった······すごいのね。感心しちゃうわ」
「長ぇこと独りで暮らしてりゃあ、嫌でもできるようになんだよ」
「その言い分だとできるようにならない私はなんなのかしら······不思議だわ」
「······」
「聞いてる? 実弥」
「フ、」
鼻で笑われ、星乃はむむむ、と顔をしかめた。
けれどそんなことはすぐにどうでもよくなるくらい、実弥の作った朝食は美味なのだった。
「そうだ、実弥。あのね······私、杏寿郎の家に行ってこようと思うの」
「煉獄の?」
「そう、生家のほう。槇寿郎さんのことは実弥も知っていると思うけれど、杏寿郎には千寿郎くんていう弟さんもいるの。私もずっと会えていなかったのだけど、少し心配だから」
漬け物に箸を伸ばし、「···元炎柱の煉獄さんかァ」と小声を漏らすと、いいんじゃねぇか? 実弥はうなずく。
「実弥の今日の予定は?」
「俺は甘露寺んとこに行くことになってる」
「蜜璃ちゃん?」
「以前壊しちまった甘露寺ンちの扉が新しくなったんだと。見に来いってうるせぇからよォ」
「実弥が知り合いの大工さんにお願いした扉だものね」
「だからってわざわざ見に行く必要もねぇだろとは言ったんだがなァ」
「ふふ。なんだかんだでお願い聞いちゃうところが実弥の優しいところだわ」
「······うるせェよ······」