第9章 花札の耳飾りは慈しみに揺れ
「···実弥が作ったの?」
「俺はどこぞのどいつみてぇに外 (おもて) でばっかは食わねェからなァ」
「わ···? 私も自炊には前向きに挑戦を···っ」
「ほー、そういやぁ、先日藤襲山の梺にある定食屋の親父が言ってたぜェ。ここんとこ星乃が毎日のように来てくれるもんだからありがてぇってよォ」
「いやだわ源さんったら···実弥には内緒にしてねって頼んでおけばよかった」
頬を赤らめ、決まり悪そうに、星乃はまた肩を窄めた。
稽古や鬼狩りの学びに時間を費やしてきてせいか、星乃は料理が苦手である。というのはただの言い訳に過ぎず、キヨ乃に料理を習ってもなかなか上達しないところを見ると、てんから素質がなかったのかもしれない。
独り暮らしをはじめても馴染みの定食屋にはほぼ毎日のように通っているし、時にはご近所さんからいただくお裾分けに恐縮ながら甘えてしまえば、食べることに苦労はなかった。
ばつの悪さを感じていると、近距離からフッ、と息の抜ける音が聞こえた。
実弥が、眉を下げ笑っていた。
「はじめててめぇの作った握り飯とお浸しとやらを食わされた時にはァ、まったく度肝を抜かれたもんだぜェ」
以前、星乃は匡近と実弥が稽古をしている道場へ差し入れを持っていったことがあった。のだが、固めに炊き上げた白米は道場に着いた頃にはひどくパサつき、掴んだ瞬間真っ二つに割れてしまった。
おまけに塩をふり忘れたものだから握り飯に味はなく、お菜に持っていった菜の花のお浸しは醤油と出汁の分量を違えたのか飛び上がるほどしょっぱかった。