第9章 花札の耳飾りは慈しみに揺れ
葬儀はしめやかに営まれたとの手紙が届いたのは昨日のこと。鬼殺隊員たちの死は、可能な限りで公にはしないことになっている。故に家族や身内だけて慎ましく執り行われることが多い。柱である、杏寿郎でさえ。
手紙を読み終えたあとの記憶は曖昧だ。気づけば風柱邸 (ここ) に足が向いていた。
ふと人の気配を感じ咄嗟に手で涙を拭う。
直後、ふすまが横滑りした。
「···起きたかよォ」
現れたのは、既に隊服を身に纏った実弥だった。いや、今はおそらく朝だから、もしかしたら夜の任務を終え戻ったままなのかもしれない。
ということは、自分は丸一晩中ここでぐっすり眠っていたということになる。
「···お前、───何かしこまってやがる」
星乃は布団の上で正座していた。
「えっと···なんというか、これは咄嗟のことで」
「あァ?」
「その、色々とご迷惑をおかけして、本当に、申し訳ありません······」
ごにょごにょと言葉を濁し、しょぼんとうつむく。
「ハッ、なにを大層に。んなもんは別に今にはじまったことじゃあねェだろうが」
「うう···それも情けない話だわ」
目の前が影になる。視線を上げると、実弥が股開いた姿勢で腰を落とした。
す、と伸びてきた手が頬に触れ、驚く間もなく目袋がぐっと下げられる。
「···へ」
「顔色は、まァまァ良くなったみてェだが、血が足りてねェなァ。肉食ってんのかよ」
あっかんべーをさせたまま、実弥はそう投げかける。怒っているわけでもなく、憂いでいるわけでも呆れているわけでもなく、純粋な口調で淡々と問うてくる。
赤身のお肉を食べてくださいと、以前しのぶからも言われた。
星乃は獣肉の独特の臭みが苦手だ。
洋食文化のおかげもあり近頃は口にする機会も増えたが、幼い頃はキヨ乃の作る食事が魚ばかりだったこともあり、今でも普段の食卓はもっぱら慣れ親しんだ淡白な魚が中心になってしまう。
「飯、食うだろ?」
「え···?」
「すぐに整う。お前も食ってけ」
ぺちぺち、と、言い聞かせるように、実弥は星乃の頬を指先だけで優しく叩いた。