第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
その後、縁壱がとつとつと自分の事を話しだした。
自分が武士の家系に生まれた事、母を亡くしたこと。刀で人を傷付ける事が、酷く不快だと感じる事。
母の伝手を頼ってこの寺に来た事。
「母上は信心深い方で、父上の元に嫁ぐ前は良くここの尼寺に来たそうです。とても綺麗な藤の花が咲いてるのだと」
芹は、縁壱の紡ぐ言葉に、相槌を打つ。優しく、ゆっくり、と。
声を出さない芹の様子を気にする様子は無い。その仕草だけでちゃんと、耳を傾けてくれている事が、縁壱には伝わっているからだ。
とはいえ、自分だけが話している為会話が途切れてしまい、また、僅かな好奇心が助け、縁壱 は問いかけた。
「貴方は何故此方に?」
少しだけ首を傾げて縁壱の膝に乗る烏を指差す。
「此方へは良く来るのですか?」
頷く。
「そのお面、面白いですね?」
胸を少し反らして見せ、咳き込んだ。面に仕込んだ花が逆流したらしい。ゴホゴホと顔の横から花弁がこぼれ落ちる。
慌てて拾い始める。
縁壱もそれに倣う。
「近くに住んでるんですか?」
首を頷きかけ、首を横に捻る。
そして指でアッチ側と示す。烏が騒ぎ始めた。
拾い集め終わると。何度かお辞儀をした後、面の鼻・・・に似た口元に花弁を入れる。
それから、手を招きをし、尼寺の門前まで一緒に向かう。
門前には僧侶達が、数人、こちらに気づき会釈をする。
縁壱に烏を、託すと手を振る。 どうやら寺を出るらしい。
「また、会えますか?」
問いに対する応えはなかった。
客人が寺の門をくぐるのを見送る。
「さぁ、縁壱、今日は、疲れただろう?少し休みなさい。」
「また来てくれるでしょうか?」
僧侶の一人に問いかける。
「さぁね。あの方はお忙しいからね。此方には来る事はあっても立ち寄る事は少ないからね」
「どうしたら、会えるでしょう?」
「鬼狩りの剣士か、鷹司の館のお殿様にお仕えするなら、お会いする機会はあるかもね。」
剣士になるか、奉公に出るか。
縁壱の耳に反芻する。しかし、ソレはこの寺を離れるという事だ。
今ではたった2つしかない生家との縁。その一つを失う。
腕にいた烏が此方を見上げる。硝子の様に澄んだ目が此方の胸中の奥深くを探る様に、
意思は決まっていた。