第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
鈴の音を目がけて、烏が飛ぶ。
紅白の紐で括られた2つの鈴がチリチリとか細い音を立てて空中で揺れる。
空中で見事に咥えて捕らえた鈴をチリリチリリと鳴らしながら、火男面めがけて飛ぶ。
片膝をつき、杖を構える。顔に激突する寸前
チリン!
烏の軌道が横に反れる。鈴が甲高い音を立てて烏の口から離れて宙を舞う。
否、烏が軌道を反らす寸前、自ら鈴を口から落とした。
そしてその鈴を火男面の人間は烏の体に触れないように杖で上に弾いたのだ。杖を紐の中心に当てて。
火男面が手を伸ばす。鈴が手に吸い寄せられるように落ちてくる。
バサバサ、チリリン!カァーカァー!
手に乗るギリギリの所を白い斑の毛に覆われた烏がかすめ取り、上空を旋回する。
鈴を落とす。杖で器用に受け止めそのまま放り投げる。
烏がまた、それを咥える。その繰り返し。
烏 は本当に顔を掠めるギリギリの所まで近づいて旋回したり横道に反れたり、時には火男面の頬を掠め、股ぐらを潜りながら飛ぶ。
火男面はそれを軽やかに、時に杖で少しいなして、鈴を取り宙に放り投げる。
その度にチリリ、チリリと澄んだ鈴の音色が響く。さながら演舞を見ているようだ。
カァー!
烏が高い声で一つ鳴き、咥えていた鈴を火男面の真上に落とす。否、片方の鈴が紐から外れたのだ。
少し低めの姿勢で杖を構える。
キン!!
鈴と杖がぶつかった瞬間、先程とは違う鈴の音色が聞こえた。音色というより金属と金属が弾かれた。高く、澄んだ耳を突き抜ける音。
火男面の左手に添えられた杖。右手に握られた杖は白銀に輝いていた。
握られたソレが刀身だと気づくのに少し時間がかかった。
その刃があまりにも澄んでいて輝いていて、美しかったから
鈴が放物線を描いて此方へと飛んでくる。
手を伸ばすとチリンッ!と音を立てて緑壱の手のひらで転がる。
チリン!
火男面の手のひらにも同じ鈴がおさまっていた。
緑壱は自分の手におさまっていたソレを返そうと近づくと、ソレを制すように手で止められる。
「頂いてもいいのですか?」
ポン!と口から藤の花が飛び出る。
「ありがとうございます。えっと名前は?」
地面に指で文字を書いて、教えてくれた。それに倣い自身の名を緑壱も地面に書いた。