第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
「……………っ」
自分の口から漏れ出る息遣いで自分が眠っていた事に気づいた。
毎晩の日課だった。炉の焔を見るのが……、
炉の中でパチパチと踊る小さな火花の音に安らぎを覚え。優しくもか細くもしっかと燃えてる。じんわり人に熱を与える柔らかな陽色に穏やかな気持ちになる。
人を守り、人を育む物。しかし、
カラン、パチ……パチッ
薪を焚べる。少し熱気が増す。芹は布団代わりの羽織を肩にかけて炉の前に座る。
同時に全てを灰燼に帰す事も出来るのだ。それを芹は身を持って知ってる。3つになるかならないかの子供の目に鮮明に映ったあの日の炎。
血のように赤く、花の様に空と大地を埋め尽くした焔
屍を灰にしながら嫌な音と匂いを立てて、体を撫ぜたあの風。
「……………」
羽織を頭から被り、耳を塞ぐ、震える身体、滲む汗。
シャラシャラと髪に着けた簪が涼やかな音を立て、頬を撫でる。
思い出さない様に、そう願えば願うだけ、鮮明に思い出されていく。
あの日、あの時の焔と……炉の焔と同じに見える事が芹にとって一番怖いのだ。
………………
………………………
その夜、刀鍛冶の里のとある邸では、
「剣士殿、我が愛弟子を助けていただき御礼申し上げる」
「何、気にする事は無い。元より鬼を滅するが我らの使命。」
快活に笑う剣士は、愛弟子に気づかれないよう護衛を若君より頼まれた者だった。
家に戻ってみれば予定のない客人が来て詳しく聞けば、泊まった寺に鬼が出たと話された。
「しかし、あの寺に鬼が出るとは、此処が見つかるのも時間の問題やもしれぬ」
藤の花が狂い咲く尼寺。鬼は藤の花の香を嫌う。だというのに……
「やはり、反対です。里の外れにいようと……あいつは、鬼贄だ。」
「あいつの血の匂いに誘われて鬼が襲ってきやしないか」
「このままでは我らもあの里の様に……」
不安を声に出す里の大人達。
「あの子はこの儂の1番弟子であり、そして、この里の子だ。どんな事があっても、禍だ。不吉だ。等と不確かで不可視のもので親が子を捨ててはならぬ。それは鬼と同じだ」
強く鋭い目で皆を見る里長の言葉に言葉が途切れる。