第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
なるべく音を立てない様、しかし、素早く障子戸を開ける。
刀を鞘から抜き、振り下ろそうとした。
チリン、
澄んだ鈴の音が聞こえて、刃が鈍い光と共に固まる。
火男面を被った小柄な人間は口元の辺りに指を添え、ソレをゆっくりと外してから此方に一礼をし、視線を床へと移す。
事切れてた鬼の亡骸がそこにあった。
鬼の亡骸に傷らしい傷は見当たらない。しかし首が繋がっているにも拘らず、動く気配もない。そして、その表情に苦悶の顔は一切無く、酷く安らかだ。
間違いなく絶命してる。刀を鞘に収める。
小柄なその人は此方が刀を納めるのを見送り、その鬼の亡骸に触れる。首から頬、髪の一筋をいたわる様丁寧に。人を食う恐ろしい化物だ。我等の怨敵だ。鬼にその様な事をする必要はない。声を荒げようとした。しかし、その指遣いがあまりにも痛ましげに触れる物だから声を荒げる事を忘れた。
藤の花がまるで慰める様にさやさやと音を立てながら揺れ、花弁を鬼の亡骸に落とす。
そうして、日の出が来て、鬼の亡骸が灰となり空に塵散するまで、鬼の亡骸を撫でていた。