第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
自分の生い立ち、自分の家族の話。生家での事、自分の見る世界は余りにも静かで人と異なる事、思いつく限りの事を拙く、饒舌になりながらも話す。烏は時折、毛繕いやテチテチと歩きながらも自分の元を離れる事なく聞いてくれる。
「ソウカ、ワカイミソラ、苦労ヲシテオル。安心召サレヨ。童、御母堂ハ極楽デ幸セニ暮ラセルヨウ、吾ガトリハカッテシンゼヨウ。鳥ダケニ」
そう言って頭に乗っかる。
「人モ、吾モ、神羅万象、世二生アルモノハ皆総ジテ、ソノ者シカデキヌ役目ヲ仰セ使ッテ生マレル。其方ガコウシテ生ヲ受ケタノモソノ役目ヲ果タス為ゾ。人ハソレヲ運命、モシクハ天命トヨブトキク。」
「天命?」
「ヒトト異ナル目ヲ持ツ其方ダカラコソ見エル何ガアルトイウノハ、天ガオマエニ導ク術ヲ与エタノヤモシレン。」
何の為に?見上げて問いかけるも烏は頭から降りる。
そして簀子をピョンピョンと跳ねて進む。
「ソレハワカラヌ。シカシ、時ガ経テバ自ズトミエテクル。ソウイウモノダ。ソノ役目ヲ無事終エル為ニモ、先ズハ食事ゾ?子供ハ大キクナル事ガ重要任務ダ。アマゴゼ達モ心配シテオル。タベルガイイ。」
かぁー・・と優しく此方を促す様に鳴く。それに応じて進むと、お盆の上に小さめのお握り二つと蕪の味噌汁と漬物が乗せられていた。
座って手を伸ばすと、嘴でやんわりと突かれて抗議の声が上がる。
「頂きます。」
塩気が少しだけ強いお握りは不思議と優しい味がした。
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・・・・・・
「ケホケホ、つ、ヅラ゛イ゛」
変な声の出し方をした所為か異様に喉が痛い。
白珠が心配そうにこちらに近づくも、笑顔で返し、良くやったとご褒美に首元を優しく掻いてやる。
そして、障子の中、烏を探してキョロキョロしている少年を見つけ、其方に行くように促す。
「タベオエタカ。重畳ナリ。アマゴゼモヨロコブ。
サテ、後片付ケニマイロウゾ。ゲホ、シッケイ。夜風ハ堪エル。」
それに応じる様に少年が襖を開け内廊下へと向かうのを見届ける。
再び空を見る。間も無く完全に夜が更ける。
だと言うのに藤の花の香りが遠い。
この場所からは酷く、懐かしく、そして、吹く風から此処で香るには余りに恐ろしい匂いがした。