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【鬼滅の刃】外伝 紫苑

第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に


お坊さんの声に対する返事はない。
 「あれ?姿がありませんね?何処にいったのでしょう。探して参りますのでそれまでゆるりとおくつろぎ下さい。」
深々と頭を下げて見送る。

 ゆっくりと部屋の中に入り中央で座る。

 ふと、部屋の奥で小さな人影を見つける。
まるで子猫が親と逸れて縮こまっているみたいな、それでいて何処か泰山の様に穏やかでいて何処か厳かな不思議な雰囲気だ。

 声をかけるべきか悩んでいると、笛の音が聞こえた。
 何処か物悲しくも優しい音色。聞き入っていると尼君が食事の用意が出来た旨を伝えに来てくれて、礼を述べてから目線を小さな人影へと向けてから部屋を出る。

 食事は、麦と粟も合わせた雑穀とかぶの味噌汁、根菜の煮物香の物。
 シンプルだがこれから里までは歩き通しになる道中を考えると温かな汁物や煮物はありがたい。よく見ると、とても小さな膳に木の実と雑穀が置かれてる。

 「お連れの烏様にも、粗食ではありますがご用意させていただきました。」
深々と頭を下げてから、白珠の分を手に取り、与えてやる。
 そうしている間もあの小さな人影の主は来る事がなかった。

 「後で食べると言っていましたが、来たばかりで少し気を張っているのやもしれません。」
 「武家というのは複雑な事情がありますからね。この乱世の世では特に」

 白珠の首を優しく撫でながら、自分の膳に乗せられた煮物と汁物を頂いく。


 ・・・・・・

 生家を離れて、何日か過ぎて漸く、引き取られる手筈だった寺に着いた。
 尼君達は驚いた顔をしたが快く出迎えてくれた。

 敬愛する兄の人生の妨げになる事を避けたくてここに来たのに、

 気づけば、母の冥福を祈り笛を吹き、敬愛する兄がどうしているか物思いにふける毎日。
 心が晴れない。否、晴れているのかいないのか、正直、自分には分からなかった。自分が見る世界は余りにも静かで、まるで水面を写し出されてるかのよう。
 手に触れても温もりはなく、残像は姿こそあれど触れられず、そこに自分がいるはずなのに自分は遠くにいるようで、酷く物悲しい。
 自分がこの世に何をする為に生を受けたのかも分からない。

 何をすべきかも、

 コツコツ、

 指先を固いものが触れ思わず目線を落とす。

 マダラ模様の烏の真っ暗な瞳が此方を真っ直ぐに見ていた。
 



 
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