第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
「本当に、帰るのかい?もう夜も遅いし、迎えに来てもらった方が・・・」
輝昭の言葉に首を横に振る。白珠殿を指差しグッと手を握り拳を作る。
「白珠殿が送れるのは途中までだからくれぐれも注意するんだよ?夜も更けてくると、鬼が出て来る可能性もあるし、まして君は・・・」
言葉は途中で途切れる。火男面をいきなり顔に被せられた所為だ。
面を外すと、神妙な顔で芹が睨んでいた。
睨んでいたと言っても少しムッと顔を顰めている位で怖くはないのだが。
「本当に、大丈夫なんだね?」
それを指摘しても、怒るだけ。何を言っても無駄だろう。
芹は大きく頷いて、綺麗な夜空の様な瞳を細める。
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産屋敷家の邸から里までは遠い。勿論、一晩歩けば着く距離ではある。が、下手に夜道を歩こうとすると白珠が怒るし、輝昭に告げ口される可能性もある。完全に日が落ちたら途中にある、産屋敷家と昔から交流のあるお寺か近くの村で宿を取る事にしよう。
自分の足音と木の葉の擦れる音しかなく、耳を澄ますと夜鳥の鳴き声がする。
藤の花の香りがする寺の前を一礼してから離れようとすると白珠が容赦なく頭を突く。
ギャーギャー!!クワックワァー、カァーー!!
慌てて口を塞ごうと手を伸ばすも空に飛んでしまい捕まえられない。
「おやおや、これはこれは可愛らしいお客様です事。」
掠れ気味の声は穏やかで此方を向ける眼差しは慈愛に満ちたモノ、そばに近づくだけで藤の香りと丁子の香りが合わさり優しくも品の良い香りがその場に立ち込める。
「産屋敷の若君様から文を頂いております。鄙びた東屋ではありますがささやかなおもてなしの準備も整えてございます、どうぞお入り下さい」
断る事も出来ず深く礼を取りもてなしを受ける事にした。
玄関先で身体を拭く布を貰い身を清める。その間微かな話し声がし、そのすぐ後。
「お立ち寄り頂いておき、大変申し訳ありませんが、寺のものと相部屋でも宜しいでしょうか?」
「・・・?」
「此方に引き取られる予定の子なのですが少し事情があって訪ねて来たのですが、何分急な事で部屋の用意も出来てなく、」
相部屋の方の許可が頂ければ此方は気にしないと伝える。見習いお坊さんが案内してくれる。
「入りますよ?縁壱。」