第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
「いつから、其処に?」
問いかけに、少し首を傾げ考える仕草をした後。
両の掌を広げて、右手から左手へと目線を移す。
まるで文を読んでる様な仕草だ。
「私が文机で考え事をしてる間、という事かな?」
ポン!
芹が被っている火男面の口から秋桜の花が出てきた。
どうやら正解らしい。因みに不正解だと無反応か、舌またはブーっと言われる。
「今日は何用かな?季節の挨拶?」
ポン、
今度は朝顔の花。暦は長月に入った、朝顔の時期は少しズレているので、これは『惜しい』という意味だろう。
立ち上がり部屋の隅っこに置いてあった風呂敷を手に取る。
モソモソ、シュッ・・・・グッ!ググゥ!!・・・プルプル、ハァハァ・・。
風呂敷包みの傍で何やら格闘している。
「・・・・・・結び目が外れないのかい?」
コクン!大きく頷く。
「貸してごらん?」
風呂敷は見た目の割に重く、結び目もかなりきつく縛ったあった。それでも器用にそれを解き、中身を取り出す。
フワリと藤の香りが立ち上る。美しい錦の布に施された日輪柄に留め具には翡翠があしらわれた鞘袋だ。こちらも頑丈に結んであり開けるのに苦労したものの、鞘袋から刀を取り出す。
鞘は上石目塗りされた黒漆に下がり藤の紋の金具。下緒に藤色の紐が実に上品で荘厳な拵えだった。
鞘から刃を取り出す。澄んだ冬の空の様な白銀の刃が少し弱々しくも清らかに輝いていた。
「素晴らしい刀だね。芹、鍛造殿によくよく礼を言って置いてくれるかい。」
深く頭を下げ、了承の意を示す。
あとひと月で12歳を迎える。それに伴い鬼狩りの剣士としてこの戦いに身を置く。これは、鍛造に頼んだ。輝昭の日輪刀だった。
幼き日、二人で交わした約束はいまだ叶わずにいた。
二年前幼い芹が泣きながらこの屋敷に来て自分の膝で泣いていたのを今でも覚えている。
「次の刀はお前に頼むよ」
深く頭を下げたまま芹は微動だにしなかった。
互いに、その約束は永劫に叶わないと知っていながら約束をせずには入れなかった。