第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
物思いにふけっていたが、早速、文をしたためねばと姿勢を正す。
ことは急を有する。文を届けに来た人にははぐらかしたが、徳川家からの文には、別の嘆願書も来ていた。
その名も釣書、早い話が嫁に徳川の縁者を入れないかというお見合い申込書だ。
前述にあった通り、我が家の一族は呪いなのか総じて生来、体が弱い。直系の男子は特に、だ。
現当主である。輝昭の父が倒れてからは、妻を娶るように進言する動きが顕著になっている。
勿論、臣下が望むならば、何より先の見えぬ我が一族の悲願を叶える為により早く妻を娶り子をなさねばならない。
それは、重々理解している。が、
チラリと文机から紙を取り出す。
開けるとそこには、桜の花や紫陽花の花びら、どんぐりや松ぼっくりなどが包まれ、女性らしからぬ大胆で些か不格好な文字でこちらの体を案じる文が簡潔に書かれていた。
思わず顔が綻んでいまう。家の為に早く妻を娶らねばいけないと分かっているのに、どうしても踏ん切りがつかないのだ。
今の自分には誰かを幸福にしてやれる保障はない。伽藍堂の自分を愛してくれる人もいないし、自分がその人を労り、愛してやる自信もない。それでも、悲しい思いもさせてしまう。辛い思いもさせてしまう。夢を潰してしまう。それでも、
もしも、叶うならばと、身の程を弁えない感情が胸にある。
深い溜息を吐くとフワリと藤の香りが漂ってきた。
ハッと振り返ると部屋の隅で中庭を眺めている人影がいた。
簡素な作務衣を纏い、髪はあまり梳ってないのか適当にまとめて紐で簡単に結い上げられている。顔は面を被り表情が読めないが、面の奥の顔は中庭を見て柔らかに微笑んでいるように思えた。
「芹・・・」
喘ぐ様に口を開く。溢れる声はか細く上擦り自分で言うのも何だが聞くに耐えない。
名前を呼ばれ、その人はこちらに身体ごと向きを変えて深く頭を下げて挨拶をした。