第1章 第一章 鬼遣の弓姫
「さぁさぁお立ち会い。ここに見えますのは天竺より参られた天人より奇術を 授けられし・・・」
「もう一声!あと少し」「いやいや、これ以上は」
客引きの口上や大道芸人の声、拍手や野次、銭を渡す音、桶に汲まれた水が揺れる音。ガヤガヤと騒がしい喧騒とした都の市場は人も物も多い。
「毎度あり!おつかい頑張れよ」「ありがとう。また来るよ」
小さな客人と商人は軽い挨拶をしてその場を後にする。
歳は10かそこらのあどけなさの残る顔立ちながら利発そうな目をした水干姿の色白な少年。走ると後ろで括った髪がまるで馬の尻尾の様にはためかせていた。
少年は懐に入れてた先程買ったばかりの干し桃をひとかじりして周囲を眺めた。
行き交う人は皆、物珍しげに大道芸を見たり、はたまた商品の値切り交渉したりと忙しなく動いてる。
賑やかなその光景に自然と笑みが溢れるそんな中、小さな固まりが目の前に現れ、軽く肩にぶつかる。
若干よろめきながら目の前を見る。ぶつかった相手は尻餅をついたらしい。
大きな大人物の袿で体をすっぽり覆い、旅草鞋をつけた足は陽に焼けて少し黒い。顔はよく見えないが頬には涙の跡がくっきりと見え、首元からチラリと見える本物と見紛う藤の花飾りをした子どもだ。
「悪い。大丈夫か?」「・・・・」
子どもは問いかけに首を横に振る。
「どっか痛くしたのか?」
またも首を横に振る。
周りを見渡しても行き交う人此方をチラリと、見ては素通りする。親らしい人間は見当たらない。嫌な予感がして恐る恐る口を開く。
「もしかして、迷子?」
この後、この問いが失言だったことを身を持って知ることになった。
そして、この小さな女の子、凪と浅からぬ縁を結ぶ事になる事を少年冬樹はまだ知らない。