第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
里の中でも離れた所に建てられた小さな小屋。
そこが芹の家だった。
戸を開けると土間には釜戸の他に鍛冶用の窯が置かれ、その側に余った鉄や鋼が散らばってる以外は目立って何かあるわけでもない殺風景な部屋が存在している。
芹に親はない。3年前、住んでいた里が鬼に襲われ、父と共に母の親戚を頼って、この里に辿り着いた。しかし、辿り着いて暫く経たぬうちに父も亡くなり此処で生活をしてる。
しかし寂しくはない。師匠であり、親代わりの鍛造が何かと気にかけてくれるし里の皆とても優しい。それに、窯から熱した鉄を取り出して思い思い槌を打つ。
澄んだ鋼の音が耳を通り心に響く。澄んだ音はまるで鈴の音のように心地いい。
「・・・も、休まず 槌・・き
飛び・・・・・湯玉
平和の打ち物 休まず打たん
鐵より堅しと 誇れる・・・
勝りて・・・かたきは」
「彼が心・・・だったかな」
声がして振り返る。
「すまない、勝手にお邪魔してるよ。熱心に打っていたから声をかけづらくてね。続けてくれていいよ?」
「いえ、申し訳ありません。今お茶菓子を用意します。」
はた、と気づく、この人に渡すお茶菓子なんぞうちにはない。しかし、お客様に菓子なしでお茶を出すのも
「茶菓子は持参してるよ。お茶だけ煎れて。お前も上がりなさい。」
芹は言われた通り、湯を沸かしお茶を入れる。
若様が私の前に菓子を置いてくれた。星のかけらの様に小さなお菓子は口に含むと硬く甘い。
もう一つはカリカリのお餅を揚げた様な物に甘葛を絡めたものだ食感も楽しくついほっぺが落ちそうになる。一つ、もう一つと食べて、空の皿を突いてしまい、慌てて手を引っ込める。
若様がクスクスと笑い、残った自分の菓子を此方に差し出してくれる。
「まだあるから食べなさい。元々お前への土産に持ってきたものだから、遠慮することはない。」
「あ、あの。いえ、そん・・もうお腹いっぱいだし、それは若さ・・むぐっ」
と手をパタパタさせてると口に小さな星のかけらのお菓子を入れられた。そのまま火傷だらけの手を優しく摩る。
「頑張っているみたいだね。鍛造殿もよく褒めていた。少しは兄として労わせておくれ」
若様とはこの里に来てからの縁だ。年上で優しく、穏やかな若様を昔は兄様と呼んで慕っていた。