第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
鍛冶場は明かり取りの窓が小さく、朝でも薄暗い。
薄暗い小屋の中、大柄の男は負けじと輝く刃をゆっくりと見る。
男は職人と呼ぶに相応しい。長年鍛冶場を任された事もあり焼けた褐色の肌。厳つくも精悍でありその目は鋭く真っ直ぐな誠実で明るい焔色の目をしていた。
やがて、
「ふむ、良い出来だな。」
そう言って男は、優しい声で言って、その豆だらけの手で優しく頭を撫でる。
子どもは齢6つになるかならぬかの幼児、髪は真っ直ぐで子ども特有の柔らかさのある黒髪を高い位置で結い上げられ留め具代わりに藤の飾りをつけていた。撫でられて心地よいのかその目は細く和ませる。
「さぁ、今日はお帰り、ここに来るのはまだ早い。」
そう言って、頭を撫でてくれた男とは別の人間が促す。
それに抵抗する様子はない。頷きその場を後にする。
次の人が緊張した面持ちで小太刀を差し出す。
今日は、言うなれば昇格試験の様なものだ。
鍛冶場で鋼を打ち刀を造る資格を示す為の、
この里で刀を打つ事が出来る人間は限られており何よりの誉であった。
幼児は明かり取りの窓からその様子を眺めていた。
ふと、普段にない騒めきを感じ、そちらへと向かう。
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・・・・・・・・・
この辺りだったはず、キョロキョロと顔を動かし足を進める。
「芹」
名を呼ばれると同時に腕を引かれる。日溜りの様な暖かな声と手の温もりに誰と気づく。
「若様。お久しぶりです。気づかず申し訳ありません。」
若様と呼ばれた男は、さる名家の跡取りだ。
畏多くも自分とは幼馴染。少し困った様な雰囲気でこちらの手を握りなおす。
「気にして無いよ。鍛造は何処かな?父上の刀を頼んでいたのだけど、鍛冶場にいなくて。」
「師匠は今、別の鍛冶場にいらっしゃいます。ご案内します。」
「よろしく頼むよ。ときに、芹、頼むからその呼び方はやめてくれないか?僕はまだ跡目を継いだ訳でもなしに、」
「とは言いましても節度は必要かと」
「とはいえ、うーむ、君と口喧嘩をするのは少々武が悪い。」
そんな事を話してる間に目的地に着く。
それを見送り自分は来た道とは別の方へと歩く。
役目は終わったあの道に行く必要はない。