第2章 第二章 刃、鋭く玲瓏に
吹き付ける熱風。窯の中で踊る焔。
槌を握る手に滴る汗が冷たく肌をなぞる。
熱風に負けじと槌を強く握り、振り下ろす。
耳に高く水面に広がる波紋のように響く金属音。
槌の先にあるもうすぐ出来上がる新たなモノ。
赤々と照り輝くそれを水につける。白い煙が音を立てて生じ、顔を蒸らす。
水から取り出すと冴えた刃煌く、一対の鋏。まるで月光の様に皓皓と輝くそれに目を奪われる。ソレを嬉々として見せに行こうと朝霧のけぶる深い森へと走る。
走って、
走って、
走って、
そして、ーーーー。
首や胸にかかる荒い息遣い、手首の自由を奪う無骨な手。全身を這い回る体を焼くが感覚が気持ち悪い。
背を預ける冷たい土と胸元で強く握る鋏の感触だけが心地良い。
鼻腔を擽る慣れ親しんだ匂い。赤く滴り光る口元をした男の背を深い闇が覆っている。
意識を晒せようと上を向けば月がこちらを嘲笑うかの様に毒々しくも美しく輝いてる。
心は静かだ。最初は悲鳴を上げていたのかはたまた、最初から声が出なかったのか覚えていない。しかし今更叫んだとしても何の意味もない。
見る事も無意味だ。目を開ければ醜く汚らわしいものしかこの世に映らない。
何かを写す事も、何かをする事も意味のない事。
月は高い。この地獄はまだ、終わらないのだから。
でも、本当は・・・・・私は、本当は、あの時、
目を覚ますと暖かな木漏れ日が肌をなぞる。
心地よくて目を細める。枕元に置いてある髪飾りを掴むシャラシャラと心地よい音が耳に届く。小鳥のさえずりが負けじと軽やかに紡がれる。
起床するにはまだ早い時間だが、身支度をしようと起き上がる。
今日は大事な日だ。