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【鬼滅の刃】外伝 紫苑

第1章 第一章 鬼遣の弓姫


サァ……サァ……サァ……―――

雨垂れの音がして、凪は目を開ける。優しく、静かに大地を潤すその音は耳に心地良い。寒さは感じない。隣で、寝息を立ててる冬樹を起こさぬ様に体を起こす。袿が掛けられていた。所々すり切れて、薄くなった布地は古くよく使い込まれていたものだと分かる
掛けた覚えがない。冬樹のものでも無さそうだ。
では、誰が?
御簾が揺れる。御簾の向こう、塗籠の近くに人影がいるのを見つける。
若君様だ。若君様が袿を掛けてくれたのだろうか、確かめようと御簾の中に入ろうとする。

「来、るな……」
若君の苛立った声がする。酷く苦しげで、痛ましい位、口籠り吐息と共に吐き出すような。そんな声に思わず身体が、一瞬強張る。
動きを止めた凪を一瞥し若君はよろめきながら体を塗籠へと忍ばせ、戸を締める。
ハッと我に返り、御簾の中に潜り込み、塗籠の戸へと近づく
「若君様、大丈夫?いたいの、苦しい?ご病気?」
凪の問に硬いものが軋む音と時節嗚咽のような呻きが返ってくる。とても苦しそうだ。塗籠を開く。

若君の青白い顔が最初に飛び込んできた。次に見えたのは煌々と輝く目、最後にその腕から吹き出る血。
暗い塗籠にいて尚鮮やかに存在を示す赤達に思わずヒュッと息がなる。
「大事、な…い。……早、く去、ぬれ」
嗚咽と感情を押し殺した様な声、此方を気にしてか気遣わしげに、血を見せぬ様にと片方の袂と腕で隠す。凪は自分の身に纏う衵を一枚脱ぎ、傷口に当て、片側に結んだ束髪の布紐で縛ってやる。

傷は鋭利なもので裂いたようにも大きな歯型の様にも見えた。痛々しい傷に思わず涙が滲む。
若君は一度、此方に手を伸ばし引っ込め、顔を背ける。

「此処は……鬼の棲家、獣も出る。あの童を連れて早々に去れ」
「でも、若、君さま……怪我」
「コレがある。大事ない。……行け」
懐から以前凪が渡した塗り薬を出して此方に見せる。

小さく頷き、手を振る。時折、後ろを振り返りつつ塗籠を出る。御簾を潜り抜ける様に出る際僅かに若君様が手を上げていたように見えた。


「ふわぁ、っとヤベ!寝てた。そろそろ帰るぞって髪が随分乱れてるな紐どうした?」
「何でもないの、それより早く出ようお兄ちゃま」
「えっ!わっちょっ引張んな」
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