第1章 第一章 鬼遣の弓姫
「馬鹿!!一人で、外出たら駄目だろ!?尼様達も皆心配してたぞ!」
ゴンと小気味の良い音と共に頭に痛みが走る。
「ご、ごめんなさぃ。お兄ちゃま」
いつもは色白な冬樹の肌は赤く、紅潮して汗も滲んでいる。しっかりと結上げられた髪も解けかけ、水干も着乱れててる。足元は泥がはね白い指先は血豆が潰れ少し血が滲んでいる。この暑さの中走り回ってくれた事がわかる。
拳骨の痛みよりその姿に心が傷む。泣いてはいけないのに、涙が溢れてくる。
「ご、ごめん。痛かったよなっ!?結構、加減なしに叩いたし…」
凪が今にも泣き出しそうになっているのに気づいた冬樹が慌てて頭を撫でる。それに大丈夫だと伝えたいのに口を開けば嗚咽が溢れ言葉が出てこない。
「兎に角、一人で、外に出るな。出ても……いやホントは出てほしくないんだけど、いや、何かしら理由があっての…ブツブツ、出てもいいけど尼様や俺がすぐ迎えに行けるように何処に行くか伝えてくれ。嘘はつくな。」
「嘘じゃ、ないも、ん…ヒック…お兄ちゃまに会いに行こうと、思ってた、けど、何処にいるか、エック、わからなく、て、」
「毎日会いに来てやるから、お前は寺にいろ」
「だって、お仕事、牛飼い」
「えっ?あぁ、牛飼い童って言ったんだっけ。まぁ何とかなるよ。うちの主人、おおらかだから。ほら、帰るぞ。おぶされ」
そう言って体を屈める冬樹に首を振る。足元に目をやれば鞋の鼻緒が赤く滲んでいる手当てが必要だ。怪我が悪化してしまう。
「………こっち」
手を繋いで荒屋敷まで引っ張る。
手近な簀子に座らせて、布を濡らして足の泥を拭くようにいい庭に植えられたガマの穂とヨモギを摘み、足につけてやる。束髪の髪紐を解いて薬草が外れないようにする。
「手慣れてんな」
「よく、お山で怪我をした時に庵主さまがこうしてくれるの」
鞋を脱いだ足は、擦り傷があるが白く綺麗だ。自分とは違うその足に何故か既視感を覚える。
「 出来た。もう暫くはうごかしちゃダメ」「おぅ、と言ってもお前はそろそろ帰らないと尼様達心配するぞ。しかも空き家とはいえ勝手に入るし」
「空き家じゃないよ若君様のお屋敷よ」「若君様ねぇ…とりあえず、此処少し休んだら一緒に寺に戻るぞ」
そう言いつつも冬樹は簀子に体を預ける。互いの手を握りながら