第1章 第一章 鬼遣の弓姫
居た堪れない気持ちと寝ている所を起こすのも気が引ける為、荒屋敷を後にした凪。
正午を過ぎたとはいえまだ、外は暑いし寺に戻っても皆忙しくしている時間の為帰っても迷惑だろうと思い。寺に戻ろうとは考えなかった。
だからといって行く宛もなく。どうしようかと思い、ながら一条大路を歩いてると川のせせらぎが聞こえる。
京の都は何処かしこと、川がある。自分が、いる所から数歩程進めば河川だ。
川の傍を歩くだけでも幾分か暑さが和らぐだろうが、凪は京に向かう際、庵主に川に近づく事を禁じられていた。尼寺にも川がある。そこに行く事は禁じられてはいなかったのに、だ。
理由はよくわからない。が、橋を渡る際、世良の尼君がとても怖いお顔をしていたのを覚えている。
何かあるのだろう。子供ながらにそう思った。言われたなら言うとおりにしなければ、
しなければ、いけない。いけないのだが、
あたりに誰もいない。
凪は人並みに好奇心もあり。自他共に認めるお転婆だ。気にならない訳がない。
炎天下の中 、少しでも涼しい場所にいたい。そんな思いもあった。
そろり、そろり。と川のせせらぎがする方に近づく。もうすぐ堀が見えその下を覗けば川が見える頃だ。
約束を破ったと知れたら、きっととっても怒られる。お尻を叩かれるし、きっと暫くの間おやつは抜きだ。
目をつぶり、おそるおそる、顔を出し、そぉーーっと慎重に目を開こうとして、
「コラ!何処ほっつき歩いてた!」「!?」
人がいない事も確認済の後に突如聞こえた声。に、付け加えて怒声。
猫が毛を逆立てて飛び上がるかの様に硬直してしまい、堀の方へと体が傾く、転がり落ちる!
バチが当たったのだ。と、転がり落ちようとしてるのにヤケに冷静な自分の頭に少し関心した。不意にグイッと強い力で引かれ、そちらに体が引っ張られる。
「・・・・っと、危ねー。大丈夫か?怪我は、・・・ないな」
目を開けると自分よりも少しだけ太く大きな腕に抱え込まれていた。
「お兄ちゃま?」
振り返ると額に汗を流して少しだけ結い上げた髪が乱れた冬樹の姿があった。
目を忙しなく動かした後、目を閉じ。
一息、
深く、長く息が吐き出される。
眉間に皺がより、凛々しい目の尻が釣り上がっていき口がゆっくり開く。