第1章 第一章 鬼遣の弓姫
冬樹が自分を尋ねてきてくれてる事なんて、知らない件の姫君は、一条の外れにある荒屋敷にいた。
この荒屋敷の主人は心底煩わしげだが、決して凪を追い出す事をしない。否、そういった行動をすること自体が煩わしいだけかもしれないが、凪はそれをいい事に上がり込み、遊んでいた。
「あついー、若君さまはあつくないのー?」
暦の上では初夏、とはいえ盆地で日を遮るものの無い都は、山奥に住む凪にとっては堪える暑さだ。
先程から袿を脱いでパタパタと風を送ってみるも暑さは増すばかり、しかも、暑い中この部屋は蔀戸も御簾もしっかりと、閉まった状態の為、蒸し風呂の様に暑い何もしなくてもジワリと汗が滲み出て体力を根こそぎ奪われていく感覚に襲われる。
せめて蔀戸を開けて風が部屋に入れば多少は違うかもしれないが、凪の背では蔀戸に手が届かない。
しかも、家主の許可なく勝手はできない。
「あついー、あついよー。とけちゃうよー。デロデロー」
呟きながらも目で若君が開けてくれるのを期待して待つ。
が、この若君、筋金入りの日光嫌いらしく、部屋の戸を開けようとしない。この光の差さない部屋で書物を読んでいた。直衣をしっかりと着込んでいるというのに汗すら欠いてない。都の貴族様って凄いなぁ。
「あ~つ〜いぃ〜・・・」「やかましい、そんなに暑ければ、池にでも入ってろ。それか、寺に帰れ、」「うぅー・・・ 御池の水は、むくいもん。お寺にいてもつまんない。遊んでくれる人がいないんだもん」
凪達が都に来て3日ほど経つ。本来ならば一日だけ滞在して帰る予定だったが、近々開かれる法会の手伝いの為に今暫く、ご厄介になる事になった。
寺の僧侶は皆優しく、都の町も尼寺には無い賑わいがあり、楽しいが、手伝いという名目で滞在してる以上あまり、我儘を言ってはいけない。一人で寺の外に出る事も許されない。
今日は、冬樹の所に行くという名目で外出を許されたのだ。
「ここに居ても変わりはないだろ、遊び相手が欲しければ別の者に頼むのだな。」
「・・・・・だ・・・てぇ、・・・ふぇ」
正論である。が、あまりに冷たい物言いに涙を浮かべる。
何故荒屋敷にいるのか? 理由は簡単。