第1章 第一章 鬼遣の弓姫
冬樹は朱雀大路を歩いていた。手には藤の花が一房握られている。
懐紙に包まれていない剥き出しの状態のソレは彼が動く度に花を散らせて道を彩っていたが、持ち主は気にする事はない。
ひょんな事で知り合った同じ年頃の姫の元に行く為だ。
その姫というのは、この都の外の尼寺に暮らしているのだが、少し前に買い出しの為この都に訪れてきたときに迷子になったのを助けた事で知り合った。
冬樹自身、厄介事に首を突っ込む様な性格ではない。
迷子を助けて、社交辞令言って、はい、さようなら。となる筈が、
その迷子事件解決時に、その姫が失せ物をしたからだ。勿論、自分が、隠したわけでもない。完全無関係。このまま、前述した通り、自分は責務から解放されても良い筈だったのに、どういう訳か、世話を焼いている。
お人好しならばそういった振る舞いをしても頷けるだろうが、冬樹自身、そこまで付き合いが良い方ではない。寧ろ、厄介事に関しては首を突っ込まない。
だというのに、あの姫の泣いた顔を思い出すと何故か放っておけなかった。自分には幼い弟妹がいる。それと重なる為だ。
あの姫と来たら、ピーピー泣いてると此方が慌てふためいている間、泣き止み。道端に咲いた花を手折って渡したら嬉しげにいつまでも大切に手に持つのだ。
幼い子供のソレだ。それ以上の感情はない。ない。全然ない。
今日、花を届けに行くだって、渡した花が萎れたと、落ち込んでたからだし、この花というのも偶然、自分の手に落ちてきたからだ。
姫はしばらく、都に滞在するらしい。その間位なら、花を届けに行ってやるのも悪くない。
それ程暇でもないのだが息抜きに丁度いい。等と思いながら、姫の滞在する寺へと着いた。
寺の僧侶が此方を少し驚いた様に見てから会釈をして入る様に道を空ける。
それに一礼してから、寺に入る。寺には満開の蓮が咲き乱れていて、美しい。それとは対象的に自分の手に持った藤の花はここに来るまでに花弁が落ちてしまったのか何と頼りない風貌か。
これでは贈れ・・・
「まぁ、冬樹殿、どうされました」
姫と一緒に、滞在してる尼に声をかけられ、ハッと我に返り、挨拶をする。
「こんにちは、凪姫に、会いに来たのですが」
「え!?一緒じゃなかったのですか?」
・・・・・・え?