第1章 第一章 鬼遣の弓姫
京の市は東西に分かれていて、それぞれを『東市』『西市』と呼んでいる。
「お兄ちゃま、凪達、コッチには来てないのよ?」
「知ってる。物を買ったりするのは東市の方が市街地に近いから質は悪いけど安い。」
西側は政等を担う地区が集まっている。
少女の持っていた髪飾りはかなり高価な代物だ。誰かが拾ったとしても売り出すとしたら、金回りの良い連中の集まるこの辺りの筈なのだ。
飾り玉などを売ってる店を見つけ、店主に話を聞く。
「そういや、随分身なりが悪い奴が綺麗な髪飾り持って来たなぁ」
「!?おっさん、悪いがそれ、ちょい見せてくれねーか?」
「こら、誰がおっさんだ!!?無理だな。唯の牛飼いのお前さんなんぞが買える品じゃない。」「見るだけいいだろうが、足元見てんじゃねーぞ!おっさん。」「あぁ゛ん!?買わん奴に見せるか!逆立ちしたっててめーにゃ売らねーぞゴラァ!?」「客に対して言うことかよ!?」
見せろ。断る。そんな押し問答を延々と続けていると凪が店主の裾をクイ、と引っ張る。
「んお!?な、何だいお嬢ちゃん」
「凪の髪飾りが迷子なの。お品に悪戯しないからみせて?お兄ちゃま?」
「うん?う、うーむ、仕方ない。ちょっとだけだぞ。」
「ありがとう、優しいお兄ちゃま?」「なに、可愛いお嬢ちゃんの為ならいいってことよ」
とナデナデと頭を撫でる。
「おい、子供に鼻の下伸ばしてんじゃねーぞ。おっさん。
あと、お前もこんな奴おっさんで十分。」
「黙れクソ餓鬼、見物料取るぞ?」
文句を言いながらも髪飾りを見せてくれる。
銀や金に光り輝く綺麗な髪飾りが並ぶ。中には本物かと見紛う精巧な作りのものもある。
しかし、
「あったか?」「ううん。無いみたい。」
藤を模した花飾りは何処にも見つからない。
「おっさん。これ以外に髪飾りはないのかよ?例えば藤の花の奴とか」
「いやぁ、無いよ。大体藤の花の髪飾りなんぞ着けてたらすぐに祟られちまう。」
「たたり?」
「あぁ、この間も、大臣様だか、右大弁だかが藤の花を贈られてその後に鬼に食い殺されたって話さ。祟りだって噂さこわやこわ・・おぶっ!?」
懐から小銭袋を取り出して店主に投げつけ
「髪飾りがねーならこんな店に用はねー。あばよ。糞爺」
そのまま走り去った